なりきり冒険日誌~王者の継承
どこか懐かしい不死鳥の紋を中心に、色とりどりの宝珠が並ぶ。目の前に広がるその光景は、私が試練を終えた証だった。
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数百年の間、荒ぶる風に閉ざされていた堂内は薄暗く、乾いた空気に満たされている。硬い石畳を軍靴が叩くと、甲高い足音が静寂を貫いた。おそらくは数百年ぶりの足音がこだまする小さな堂の中央で、王者の座へと挑むものを待ち受ける石碑は年月に風化することなく、ただ厳かな気配と共に、静かにたたずんでいた。
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ドワチャッカ大陸、ゴブル砂漠は竜巻の遺跡。時の王者たる資格を求めて、私もようやくここまでたどり着いた。
ロディアに導かれてやってきたこの遺跡で課せられた試練は一風変わったものだった。
試練を告げる声と共に、私の記憶は濁流のようにかき乱され、おぼろに霞み、やがて波濤のごとく溢れ出した。
氾濫する記憶は象となり、形となり、夢と現と幻の狭間を私の肉体はさまよう。
そして彼らはそこに居た。
記憶の中に潜む強敵たち。かつて戦った魔物たちが私の眼前に現れ、襲い掛かってくる。
プスゴン。ふざけた顔と裏腹に、私に苦汁をなめさせた相手だ。かの風乗りを救うため、私は鍛錬に励んだ。
アラグネ。当時は旅芸人一筋だった私に、初めて他の職で修業を積む必要性を思い知らせた魔性の蜘蛛。修業に励むひと月の間、キュウスケが奴を食い止め続けてくれた。彼はエムブレムを与えられるに相応しい男だ。
クァバルナ。魔法戦士となって日の浅かった私を大いに苦しめた天魔。奴を倒したとき、私はようやく一人前になれた気がした。
そして我がヴェリナードの宿敵、記憶にも新しい暴君バサグランデ。
確かにいずれも手強い相手だった。
……が、しょせん過去の記憶である。実体を持たぬ幻である。
今の私が彼らを殲滅するまで、それほど時間はかからなかった。
最後の試練にしては少々拍子抜けするほど、あっさりと戦いは終わった。
宝珠が紋章の扉を満たし、継承の間への道が開かれる。そこで私を待ち受けていたのは、一体の聖人像だった。
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翼もつ姿。天使の像。
星空の守り人、だろうか?
厳かな声が響き、かつての時の王者から光り輝く何かを受け継ぐ。それは何か。声は語る。それは……
「それは勇気だ!」
……。
少々反応に困る。
もう少し具体的なものを受け継がせてもらえないだろうか?
だが反問は許されなかった。
ロディアの語るところによれば、災厄の帝王は光の河の底、闇の世界にいるという。
彼女はそこに突入するすべを模索しているようだ。迎え撃つ戦いに終始すると思われていたこの戦いは、どうやら魔界への殴り込みへと様相を変えていくらしい。世告げの姫も、なかなかの武闘派だ。
姫たちが突入の準備を整えるまで、私にはしばしの休息が与えられた。
折も折、世は祭りの季節。私もゆっくりするとしよう。