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デスマスターたちの協力を得て、調査は一足飛びの進展を迎えることになる。
霊感の鈍い私には状況を把握しきれなかったが、どうやら早くも犯人の所在を突き止めることに成功したらしい。にわかに忙しくなってきた。
「猫の手は貸さないわよ」
とファンファンが言うので、私はエルフの手を借りることにした。僧侶のリルリラ。一応神に仕えるだけあって私よりは霊感が働く。
彼女にはぼんやりと、デスマスターたちにははっきりと、霊の姿が見えるのだそうだ。
私には霊界通信機なる奇妙な蓄音機から聞こえる雑音交じりの声だけが頼りである。
「いよいよ決戦か……あんにゃろー、ただで済むと思うなよーー!!」
と、犯人に対して尋常でない怒りを燃やすのはネリムという名の少女。気合は十分だがどうも戦技には不慣れな様子で、戦い方が危なっかしい。フォローしてやる必要がありそうだ。
「オッケー、フォローミー!」
「そういう使い方をする言葉じゃあない」
ネリムは大鎌を大上段に構える。彼女は決して上品でも思慮深くも無い。口も悪く直情的だが、不思議と嫌味な感じがしない。どこか品格のようなものを備えた少女だ。
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聞けば、ここに至るまでいくつかの挫折や悲しい事実とも直面してきたそうだが……その挫折も悲しみも、今彼女を突き動かす怒りさえも、陰でなく陽の性質に変えてしまうバイタリティの持ち主なのだ。
バイタリティ。死を司るデスマスターには不似合な言葉だ。が、逆にそれくらいでなければ死者との対話には耐えられないのかもしれない。
一方、ネリムを諌めるのはもう一人のデスマスター。こちらは一目で熟練の冒険者とわかった。
だが、自ら手にした大鎌を見つめるとき、その表情は複雑なものに変わる。それが私の気にかかった。
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「そうね」
ファンファンが頷いた。
「まるで自分の住んでた村を亡ぼしたカタキが大鎌の使い手だったみたいな表情だわ」
「やけに具体的な例えだな?」
「でも、デスマスターとしての素質は抜群よ。何度も死に触れてきた人だから」
猫は断言した。一度か二度は死んだことがあるかもしれない、とも。どこまで本気なのやらだ。
死に誰よりも触れた冒険者と、生命力の塊のような少女……面白い組み合わせではある。あとは実戦でどう出るか、だ。
犯人が自ら触れ回った「儀式」の舞台はドワチャッカ大陸、ボロヌスの溶岩地帯。
ルーラストーンと馬車、少々の援軍を手配し、我々は決戦の地へと向かった。