「なるほど……ツヤめきペイントとは、こういうものか!」
新しい装備に袖を通す。テカテカと輝いていたゴシックコートの裾から光沢が消え、コマンダーコートとよく馴染む。
上着の白いラインに合わせて全体を整え、靴は玄武、帽子はアドミラル。
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「サンプル品はお気に召しましたでしょうか。ご入用の際は是非当店を」
店員のシールド小僧が営業スマイルを浮かべる。私の隣では洒落者のマジックアーマーが自分の鎧にツヤを出そうと販売品に手を伸ばし、できないと知って肩を落としていた。
新時代の到来。先の討伐作戦で交易ルートが復活したおかげもあり、ファラザードのバザールには次々と新商品が入荷されていた。
新素材、新装備、そして……
「目玉商品・ツヤめきペイント! 今なら無料サンプル配布中!」
店員が声を張り上げる。このツヤめきペイントは装備の質感を変更できるという夢のアイテムである。
これがあれば、ゴシックコートもファントムマントもドレスアップに組み込める。
私も早速サンプル品を一つ使ってみたが……なかなか悪くない。
「ううむ……だが、ゴシックコートの裾の長さ……これを考えるとコマンダーではボリューム不足か……?」
実際に使ってみて初めて抱く違和感もある。種族やポーズ、使用武器によってもコーディネイトは変わるものだ。
「ウム……こっちか!」
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裾の長さに負けないボリューム感! メロディアコートを引っ張り出し、今度はメロディアの金糸に合わせてゴシックの色を染め直す……
「ムム……だがサンゴールドは少し黄色が強すぎるか……アンバーに……イヤしかし前から見た場合の色の強さが足りんぞ……」
以下、右往左往を繰り返す。
私が同じ場所でしばらく動かなかったら、妖精の姿身を覗き込んでいるものと思われたい。
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「……っていうか、元とあんまり変わってないんじゃない?」
「気分の問題です」
ジルガモットの的確な指摘を私は軽く受け流した。
駆け出しの時代、そのフォルムに憧れを抱きつつもレザー特有の質感ゆえに鎧としか合わせられなかったゴシックコート。
それを布装備と合わせられるだけでも嬉しいものなのだ。
同じ理由で、ファントムマントも試してみたいところだ。
「ま、少々値は張るが……?」
バザールの元締めに意地悪く肩をすくめてみせる。
「……コストは年々上がってるけど、みんなが使う日用品は値上げできない。となれば多少のことは必要なのよ」
ジルガモットは腰に手を当ててため息をついた。苦労しているらしい。私も少しは貢献してみるか。
「そういえば、装備の方はどう? 新調していったら?」
「イヤ……今回は……」
曖昧な笑みを浮かべて首を横に振る。魔法戦士の私が注目していたのは「神技シリーズ」だったが……残念ながらあまり魅力を感じなかった。
弓を使って攻める分には悪くないのだろうが……
どちらかといえば中途半端にしていた「大怪傑シリーズ」の各種耐性を揃えるきっかけとなりそうである。
「ふうん……ま、バザールが賑わってくれるなら、旧商品でも構わないけど……新素材の値段にも関わるか……」
ジルガモットは思案顔で腕を組む。
思えば片手剣も前回の新商品は、やや地味なものだった。フォースブレイクと相性の良い邪紋の剣をいまだ愛用している。そろそろ目玉となる装備が欲しいところだ。
「雲行きも怪しいし、な……」
動乱の魔界。まだまだ戦いは続く。
「バザールもまだまだ安泰、とは言えないわね」
元締めは街を見下ろし、私は空を見上げるのだった。