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唇を噛みしめた私の前に、青い輝きが走った。
それは空中で巨大な氷塊となり、サソリの群れへと降り注いだ。
細く鋭く光が走る。氷の刃が突き刺さり、虫たちが今度こそ動きを止める。巨大な氷柱が立ち並ぶその向こうにあったのは、杖を構えた魔法使いの姿だった。
九死に一生……!!
私は再び長城を駆けあがりながら、背中ごしの恩人に感謝の小ジャンプを贈った。
砲手以外の隊員は敵軍団長の相手を担当している。それだけでも簡単な仕事ではない。
にも関わらず、彼は砲撃失敗を察知し、こちらに駆け付けてくれたのだ。
見事な仕事である。いつか私も、こんな仕事ができるようになりたいものだ。
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とはいえ、今は目の前の仕事が先決。
再び砲座につく。三つの砲台を行き来し、次々と現れる魔鐘を砲弾で打ち抜く。
……ま、やや装填に手間取り、遅れ気味ではあったが……そこは仲間たちがフォローしてくれた。
着弾点以外の魔鐘は相変らず隊員たちが対処する。だが、言葉で言うほど簡単なことではない。
城壁の上から見ていると、敵軍の巧妙さがよく分かった。
敵の本命というべきは、中隊長すら召喚する力を持つ「大暗黒の魔鐘」。これを全力で阻止するのがフィールドプレイヤーたる一般隊員の任務だ。
だが敵は、本命の前に必ず小さな魔鐘を出撃させ、注意をそちらに惹きつけてから本命を投下する。これに引っかかって、本命を見失う隊員が後を絶たないという。……こちらがオトリを使うなら、敵もまた、というわけだ。
幸いにも今回の隊員たちはその手筈を見切った猛者揃いだった。剣士は小物には目もくれず、本命を待ち受けて一気に叩く。鮮やかな手際である。
一方私は、中央着弾点に到達した軍団長をめがけて、砲弾アントから入手したしびれ砲弾を撃ち込んだ。これで足止めを……
と思った瞬間、隊員が金縛りの札を使って足止めを行っていた。効果が被る。
……私はまた何か、やらかしたのか?
だが、もはや自分を責める暇は無かった。
「警戒せよ!」
総帥Mの声が二度目の大軍団到来を告げる。再びオトリ役がエサをまく。今度こそ遅れずに砲撃! 一網打尽!
ほっと胸をなでおろす。
これで砲手としての任務は全て完了だ。
私はようやく肩から荷を下ろし、城壁を駆け下りた。
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戦いは終盤を迎えていた。城門を狙う敵軍団長を全員で狙い撃ちにする。私はフォースブレイクでそれを援護。
結界の耐久力は、かなり危ういところまで追い込まれたものの、敵もまた限界を迎えていた。
がくりと脚の節が硬直する。巨大昆虫は、まるで油の切れた機械のようにぎこちない動作で撤退を開始した。
追撃を駆けるほどの戦力はこちらにも残っていない。砂塵の彼方へ、消えていく魔影を見送るのみだ。
「防衛成功だ! よくやってくれた!」
総帥Mの声が作戦完了を告げる。……否や、私は安堵の吐息を漏らし、城壁にもたれかかった。
初めての砲撃担当を、どうやら無事、切り抜けることができたようだ。
ミスもかなり多かったが……終わり良ければ総て良し。初心者砲手のレポートとして、かえって役に立つものになったかもしれない。
私は報告書をまとめ、ユナティ副団長……もとい交換員Y氏に提出。
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「フム……大分、あたふたしたようだな」
「臨機応変の対応です」
「そうだな。貴公以外が、だが」
Y氏の言葉が胸に刺さるが、逆に言えば全員が完璧でなくとも防衛は可能というわけだ。それを証明できただけでも参戦した価値はあったのではないか。
……そういうことにしておこう。
このレポートが、防衛軍に興味を持ちつつも尻込みしている誰かの役に立つことを願って、ひとまずはペンを置……
「では引き続き、ジュレット防衛に向かってくれ」
「は……?」
……記録員Mの戦いは、もう少しだけ続く、らしい。