香る海風、光る波。耳を撫でる潮騒と、白い砂浜。
ジュレットは常夏の都。海岸線から内陸へとせり上がっていく大地に設置された旅人向けの休憩所がその原形であり、今やウェナ諸島を代表する都市へと発展した。上層から海を見下ろせば、夏の色をした水飛沫がいつでも我々の目を楽しませてくれる。
だがそのジュレットに今、硝煙の匂いが漂っていた。
陽気な市民たちは家に閉じこもり、潮風を遮る緊迫した空気が我々の周囲を固く取り囲む。
アストルティア防衛軍、本日の出動はジュレット。
水面は刺々しく逆立ち、間近に迫った敵軍の気配を我々に伝えていた。
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「偵察隊が敵影を捕捉! 各隊員、警戒せよ!」
総帥Mの声が響く。
上層へと続く南北の階段には物々しいバリケードが設置され、風光明媚で知られるジュレットの景観を台無しにしていた。その奥には、さらに剣呑な大型砲台が三門。ここが守りの要となる。
これから戦場となる下層は無防備に解放されていたが、そもそも下層にある施設といえば冒険者の本拠地たるルイーダの酒場と、宿屋協会が運営する鉄道駅、そして冒険者向けの住宅街。……いずれも難攻不落である。防衛軍が守るまでも無いだろう。
ゆえに、南北の階段に設置された結界を守り通すのが我々の任務となる。
私も魔法戦士団の一員として、恥じることのない戦いを見せねばなるまい……
「チィーッス! 皆サンよろしくッスね~!」
……と、隣の隊員が気の抜けた声で空気をかき混ぜた。
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その場で踊るようにクルリと回り、決めポーズ。隊員たちが苦笑交じりで挨拶を返す。どうにも軽薄な雰囲気を漂わせた青年だ。本職は遊び人、と名乗っていたが……それは職なのか?
「いえいえ、私など本職が無職ですから」
「……補給員は後方待機」
補給大臣Pはそそくさとその場を立ち去るのであった。
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……さて、和やかなムードはここまでだ。
「来たぞ! 持ち場に着け!」
総帥Mの掛け声のもと、我々はジュレット下層、酒場前に布陣。
いよいよ戦闘開始である。