私の名はミラージュ。ヴェリナードに仕える魔法戦士である。
だが今、私が立っているのは潮風吹くウェナの浜辺ではない。
見上げれば空は暗く、薄緑色の光がほのかに雲を浮き上がらせる。
ここは魔界。
覇を競い合う魔界三国の緩衝地帯であるゲルヘナ幻野から、私の二度目の魔界紀行は始まる。
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魔界三国の勢力図は、ある事件をきっかけに大きく動き始めた。その状況を調査・分析し報告することが、私に与えられた任務である。
生温かい風をヒレに受けながら、私はアーベルク団長の言葉を思い出していた。
前回の調査で持ち帰った情報から、上層部は軍事国家バルディスタを仮想敵国に認定。親アストルティアの政策を打ち出すファラザードは比較的安全な存在と判断されたらしい。
「現状、ヴェリナードは政治的不干渉を貫くが、各団員はそのことを念頭に置いて活動せよ」
とのお言葉である。
「つまり我々は中立だが、天秤は傾けて使え、ということですな」
私の言葉に、団長は笑みを浮かべただけだった。
「なんか難しい話だねえ」
再び妖精に扮した僧侶のリルリラが頭の上をくるくる回る。
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「めんどくさいことにならなきゃいいけどニャー」
猫魔道のニャルベルトが欠伸ついでに顔を洗う。
これに魔法戦士の私を加えた3名が、旅の仲間というわけだ。
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「ま、悩んでも仕方あるまい」
できることをやるのみだ。
我々はさっそく、勢力図が動き出すきっかけとなった「ある事件」について、調査を開始した。