ダストン氏のガラクタ探索は主にガテリア・ウルベア時代の遺跡を標的としている。かつて栄華を極めた皇国・帝国の残骸を拾い集め、今や無用のガラクタとなったモノ達に限りなき愛を注ぐのだ。
だが、腐っても古代文明の遺物。ゴミのつもりで拾ってきた物が思わぬ貴重品だった、などという事件も一度や二度ではない。
「あのガラクタ城は実際、宝の山かもしれないのですよ」
とは、王立調査団に所属するキンナー調査員の台詞である。
そんな彼のコレクションの価値に、魔物達が…正確には、それを率いる何者かが、気づいたとしたらどうか。
彼らの狙いは、まさにそこにあるのではないか…
「こ、この中に役に立つモノが!? ひぃぃぃっ、想像しただけで鳥肌が立つですよっ!!」
ダストンはまたも震え始めるのだった。
「そのお宝とかいうのを、とっととヨソにやっちまってまってくだせえっ!」
「だが、どれが対象だかわからんのでは……いっそ全部か」
「わ、わしのガラクタを全部奪うつもりですかっ!? それはあんまりですよっ!!」
喧々諤々。私と副団長は顔を見合わせる。
盗賊ギルドのダルル姐御がやってきたのはその時だった。
「苦労してるらしいね」
わめきちらすダストンと困り果てたユナティ副団長を見比べ、彼女は腰に手を当てた。
「見てのとおりだ。城主殿は気難しいお方でな」
私は肩をすくめた。
ユナティ副団長はなおも説得を試みるが、ダストンは聞く耳を持たない。
やれやれ、とダルルは首を振った。
「交渉ってのは、相手を見てやるもんさ」
「ほう」
自信あり、という表情だ。
「ではお手並み拝見といこうか」
ダルルは副団長と交代し、交渉の舞台に立った。
そう、舞台だ。
彼女は役者じみた仕草で周囲を見渡しながら脚本なき芝居を開始する。
「さっき言ってた、この中のどれかを魔物が狙ってるって話だけどね…」
溜息を一つ。
「まったく、迷惑な話さね。どれだけ貴重だか知らないけど、こっちにとってはタダのガラクタ…何の役にも立たないのに」
「ガラクタ…」
その言葉にダストンはピンと背筋を伸ばした。
「そのクセ、魔物だけは引き寄せるなんて…とんでもない疫病神のポンコツだよ」
「ポンコツ…!」
ダストンの緑色の頬が紅潮する。耳元で美姫が囁いたように。
ダルルは付近のガラクタを軽く叩いてみせた。打てど響かず。気の抜けた音が鳴る。
「けど、アンタら防衛軍ってのもご苦労なこったね」
と、我々の方を振り向く。
「何しろ、そんなガラクタを手間暇かけて守ろうってんだからさ」
片目をつぶるダルルの背後で、ダストンは雷に撃たれたように硬直していた。
短躯が痺れて震えだし、やがて抑えきれなくなった衝動と共に彼は跳ね上がった。
ガラクタ城が揺れる。けたたましい騒音と大量の埃を引き連れて、彼は私とユナティ副団長に駆け寄った。
「わしは今までアンタらを誤解してたようですよ!」
戸惑う副団長の手をがっしと握り、ダストンは熱のこもった口調でまくしたてた。
「役に立たねえガラクタのためにこんな大所帯でやってきて大騒ぎするなんて! アンタらとんだポンコツですよっ!」
「なっ!?」
副団長はあんぐりと口を開けた。その口に向かって彼は指を突きつける。
「アンタらまとめてポツコン5号ですっ!」
喜色満面。ポツコン1号が隣で丁重に一礼した。
「ああ…そう考えるとあのイカつい砲台もとびきりのガラクタに見えてきたですよ…」
彼は恍惚とした表情で外に飛び出し、設置中の砲座に熱い視線を注ぐのだった。
…かくしてめでたく防衛設備の設置許可がおりた。
ワナワナと震えるユナティ副団長には、しばらく近づかない方がいいだろう。
私はダルルの側に避難した。女盗賊はしたり顔だ。私は素直に賛辞を述べた。
「大した交渉術だな」
「なぁに、これはただの受け売りさ」
ダルルはチチチ、と指を振る。
「あの人の扱い方に関しちゃ、何しろ詳しい奴がいてね」
「詳しい奴…?」
ダストン氏に視線を戻す。居並ぶ防衛隊士をポンコツ呼ばわりしては煙たがられ、それでも彼はご満悦の様子だ。
…彼を理解できる者など、この世にいるのだろうか…?
「ま、アタイにも独自の情報網があるのさ」
彼女はピースサインのまま敬礼に似たポーズをとった。
実に、興味深い話である。
* * *
こうして、様々な障壁を乗り越えて防衛軍は準備を完了した。
あとは隊士を募り、実戦に備えるのみだ。
「ミラージュ。貴公にも戦線に加わってもらうぞ」
ユナティ副団長は厳かに告げる。
火山灰が、キナ臭いにおいを運んでくる。
そして、戦いの日がやってきた。