『0.3%』
この数値が何を意味するか、ご存じだろうか。
明日の降水確率にしては低すぎるが、宝くじのあたる確率にしては高すぎる。もっとも、今、私が立っている場所においては降水確率としても高すぎるかもしれないが……
私の名はミラージュ。
ヴェリナードに使える魔法戦士だが、今は一介の冒険者としてこの地を訪れている。
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ひらひらと白いものが、私の視界を舞う。
マティルの村は今日もフェザリアス火山から降り注ぐ灰の雨に包まれていた。竜達の世界、ナドラガンド。炎の領界は地獄の業火に包まれた世界だ。
数という概念が意味をなさないほど無数の灰が空から舞い降りる。そして地に落ち、風に散り、誰からも顧みられることは無い。
廃村となったマティルの村に定期的に刻まれる足跡もまた、それと同じだ。現れ、地に落ち、消える。
ただその痕跡に残った熱量だけが彼らの歩みを物語る。
そして雄々しくも剣呑な光を放つ赤竜の瞳だけが、彼らの勇姿を刻みつけるのだ。
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常闇の竜レグナード。
神々の時代から存在するエンシェント・ドラゴンの一角であり、最も危険な竜の名だ。
彼が封印から解き放たれるのを防ぐため、ここマティルに陣取る巫女プリネラの手を借りて、冒険者達はこの難敵に挑む。
そして0.3%とは、かの竜が本気を出した場合の冒険者達の勝率なのである。
いうまでもなく……この竜に挑戦するような冒険者は、それなりに腕に覚えのある闘士達である。その上での0.3%。レグナードがどれほど危険な存在なのか、わかろうというものだ。
世界宿屋協会が各種のデータを調査し、この確率を弾きだしたのが約半年前のこと。冒険者達はその後、更なる研鑽を積み、力を増した。
今ふたたび統計をとったなら、この数字はどう変化するだろう。
劇的に上昇するのか、それとも大差ないのか。戦力が整ったことで挑戦者数は増えたのか、逆に旬を過ぎて減ってしまったのか……
見当もつかないが、ただ一つ、言えることがある。
それは、その数字の中に我々の戦いも含まれている、ということである。
(続く)