なりきり冒険日誌~魔法戦士、祭りに行く
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雨がちの湿った空気が土と草の匂いを鼻孔へと運んでくる。
耳には祭囃子と鼓の音。雑踏、笑い、的屋の啖呵。色とりどりの浴衣が道を埋め、手をつないだ恋人たちがひそやかに語らう声が漏れ聞こえてくる。
夜を照らす提灯の光がそれらを包み、ゆるい微風に明かりが揺れれば、影が踊る。宵闇の中の光。光の中の影。それが幾重にも重なり、境内は祭りという名の異界に変わる。
あやかしの領域に踏み込んだような、おぼろげな視界。
懐かしさと、奇妙な期待感。日常の中の非日常。
祭りにはそんな独特の空気がある。
神と自然を奉った古代の儀式から時代は変わり、祭りは庶民の楽しみへとその姿を変えた。だが、その影には今なお、暗く土の匂いがする魔性の魅力が残っている。
その魔性が人々に囁きかけるのだろうか。
祭りを行く人々はどこか呆けたような顔で、夢見がちな瞳を空に向ける。
そんな時には、硬く締めていたはずの財布のひもも、いつの間にか緩んでしまうものである。
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前置きが長くなったが、任務の息抜きに、と訪れたこの祭りで私も少々散財した。
錬金された七夕の剣を持ってこいと言われたのに、錬金されていないものを購入してしまったり。
誤って攻撃錬金が施された七夕の剣を購入してしまったり。
あまつさえそのことに、剣を装備した後で気づいたり。
全ては祭りの魔性の成せる業である。
当初は一人で行う予定だった晴れ呼びの儀だが、こうも散財してしまっては、それ以上の費えが躊躇われてくる。結局、ほかの冒険者の力を借りることになった。
幸いにして、私のような者にも手を貸してくれる心優しい旅人がアストルティアにはいた。彼女の助力を得て、無事晴れ呼びの儀を完了する。その冒険者とはそれっきり別れてしまったが、深く感謝せねばならないだろう。
今もアストルティアの空の下で旅を続けているであろう彼女に幸あれ。
さて、報酬として手に入れた牛飼いの衣装だが、風雅なエルトナ文化の香り立つ、見事な衣装だった。こんな衣装が似合う場所は限られている。
さっそく私は次の目的地を定めた。