かつて私が出張任務で、とある漁村を訪れた時のことである。
村の狩人をサポートするハンターズギルドの受付嬢は、こう語った。
「ハンターたるもの、オシャレでなければならないのです!」
また、つい最近交易のために滞在した、エルトナの古い街並みを思わせる山里の加工職人は、武具を物色する私にこう語りかけた。
「強さだけでなく、見た目も大事にしたいですよね。それでついつい、悩んでしまう。お気持ち……わかりますよ~」
……何故か終始、半笑いで話し続けるせいで妙に記憶に残る男だった。が、職人としては非常に優秀で、先日、メギストリスのドレスアップ屋に近い技術を里に根付かせることに成功したのだとか。
そういう話を聞いて、私の中のドレスアップ欲も高まり始めていた。外側の世界に触れることで、内なる欲求を刺激する。やはり交易はロマンだ。
前置きが長くなったが、要するに新しい衣装を用意してみた、という話である。
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タンブラーバンダナを頭にかぶり、体には族長のケープとドラゴンベスト。手足は防衛軍のグローブと麻の靴を合わせてみた。
コンセプトは遊牧民。馬に乗って広大な草原を疾駆し、獲物に射かけ、時に剣を振るって自衛のために戦う精悍無比の戦士たち。
私は遊牧民の暮らしにそれほど詳しいわけではないが、質朴な暮らしぶりとは裏腹に、抑えた配色ながら美しい色とりどりの飾り布、記号的な柄で万物を表現した精巧な織物が私の中で彼らのイメージを美しく彩っている。
そんな彼らへの憧れと、魔法戦士団のイメージカラーである「赤」を合わせてこういう衣装になった。
ついでに、剣も色合いを合わせてみた。
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この衣装が似合いそうなのはレンジャーや魔物使いだろうか。
最近、装備を整え始めた魔剣士にも悪くはなさそうである。
「……で、中身の装備はあるのニャ?」
猫魔道のニャルベルトが私の胸を杖でつついた。……痛いところだ。
というのも、魔剣士だけでなく、実を言うとまだ魔法戦士としての装備も更新が終わっていないのだ。
今使っている"大怪傑の装束"はフォースブレイクの成功率を高めてくれる優秀な防具だが、さすがに二世代前の装備。そろそろ買い替え時という気もする。
そもそもフォースブレイクの成功率は相手の耐性によるところが大きく、装備による差がどの程度出るものか……。
新商品のワンダラーズマントは取り回しも便利で、長く使えそうに見える。ここは金をかけるべきところか?
上下一体といえば魔侯爵のマントもだ。一世代前のミラーアーマーも優秀だが、手軽さという点ではこちらが勝る。
魔剣士との兼用のために一式そろえたいところだが……
猫の杖がトンと床をたたく。
「予算オーバーだニャ」
「いや、耐性を一つに絞るなら、安く買える時代だ」
「でもその場合、たくさん買い揃えとく必要があるニャ」
今度は杖が装備袋を叩く。先月整理したばかりのはずが、もう膨れ上がっている。
良いものは高い。安いものは袋を圧迫する。二律背反に悩まされた冒険者が赴く先はただ一つ。
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「とりあえずゼルメアで良い品が拾えることを祈るか!」
「それで拾えないまま次の装備が発売されるパターン多くニャいか?」
猫の杖が背中をえぐる。真実は時に痛みを伴うものである。
……と、まあ雇った冒険者を撮影のために下がらせて猫と私の二人だけになったわけだが……
「まさかそのまま戦闘に突入するとは……」
「とは……じゃニャい!!」
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「よく勝てたニャ……死ぬかと思ったニャー……」
戦いを終えて、猫がぐったりと座り込む。敵は大群だったが、どうにか凌ぐことができた。
これも全て私の見事な采配のおかげ……などではなく、世界樹の葉と雫のおかげである。
「節約のために来たゼルメアで散在するのってアホらしくニャいか?」
「そういうこともある」
猫が大きく肩を落とした。
かくして今日もゼルメアに、冒険者の悲喜劇が刻まれる。
幸運と不幸の戦士達の旅に、終わりはないのだ。