冬空に桜が舞う。
エルドナ大陸南部、王都カミハルムイの雅な街並みに、工具が木材を打つ高い音が響いた。
いかにも腕利きらしいエルフの職人が精悍な顔つきでノミと槌を振るう。かんなをかける独特の摩擦音と木の匂いが、エルトナの風雅な景色に溶け込んでいく。
ここは木工ギルド。大陸中の大工や職人たちが集う木工の聖地である。
エルトナの木工技術は世界的に評価が高く、特に造船に関してはレンドアやウェナ諸島からも注文が届くほどである。
漁船、客船、そして時には海賊船。
私の目当てもそれだった。
私は持ち込んだ木材を木工職人のシヅヤ氏に渡し、加工の日取りを確認する。若きエルフの職人は感心したように頷いた。
「この原木なら、いい船ができるな」
そして彼は木材から目を離し、私の顔を見上げた。スカーフとサッシュ、そして帽子を彩る鮮やかなブルー。
「さすがはマドロック船長の部下だ」
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私はスカーフの位置を少し直し、微笑んだ。
と、その会話に割り込んだ声がある。
「おい、貴様ら! 洗いざらい話してもらうぞ!」
振り向きざま、私は顔をしかめた。
ツカツカと高圧的に詰め寄ってくるその青年の顔を、私は知っていたのだ。
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あちらもやや遅れて気づいたようだ。一瞬の沈黙。響くノミの音。
……一方、シヅヤは突然の闖入者に驚きを隠せなかった。
「ちょ、ちょっと、何だよ急に」
「ム……」
そのウェディ族の男はコホンと咳払いし、私をジロリと睨みつけた後で名乗りを上げた。
「私はヴェリナード魔法戦士団のゲーダムだ。レンドア近海に跳梁するハルバルド海賊団について調べている。知っていることを全て述べろ!」
「海賊だって……?」
シヅヤは遠慮がちに私の顔を見上げた。私は気まずい空気の中で目をそらす。
ゲーダムもまた、微妙な表情を顔面に張り付けたまま視線を泳がせた。
「……で、そっちは……」
「……ああ……どうも」
私はぎこちなく会釈した。
「マドロック海賊団の新入り、ミラージュです」
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白けた空気が漂った。