短銃が空を撃ち、ブーメランが風を切る。
赤と青、二色の海賊団が左右に別れ、激しくもみ合う。やがて雄叫びが上がると、二つの大波が正面からぶつかり合う。
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我々は側面からその様子をうかがっていた……否、マドロックがその位置取りを計算して戦いを仕掛けたのだ。
青の海賊団はやや劣勢に見えた。数は互角でも戦いの場数が違う。ハルバルドの手斧がフレンジーの剣を跳ね上げる。血の色をまとった海賊船長が、獰猛な笑みを浮かべる。
私はやや迂回しながら雇われ兵を率いて突撃を開始した。赤の海賊団が逆方向からの波に一瞬、浮足立つ。
そこにゲーダムが五月雨に矢を射かけた。波が崩れる。
戦いは水。
マドロック海賊団がこの機を逃すはずはなかった。
「撃て! 一斉射撃だ!」
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携帯式カノン砲を一列に並べ、次々に発射する。火力の波に、赤の海賊団が飲まれていく。かろうじて砲撃から逃れ態勢を整えようとするハルバルド船長を、側面からの狙撃が襲う。
総崩れとなった。
私はかく乱を済ませると青の海賊団に合流した。既に趨勢は決していた。
ゲーダムは……弓を構えたまま一瞬、こちらを見た。私を……いや、青波の海賊団を。
暗い洞窟に矢じりが鈍く輝く。眼光。刃より鋭く、昏い。
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私は剣を止め、彼を正面から見返した。寸刻の静寂。
……ほんの一呼吸のことだ。
彼は矢を赤い海賊団に向け直し、続けざまに放った。ハルバルドの足元にそれが突き刺さり、逃走を制止する。
ゲーダムは岩陰から姿を現し、逮捕状を掲げた。
「魔法戦士団だ! 貴様らの令状は既に出ている! 諦めてお縄につけ!」
同時にマドロックが剣を突きつける。ハルバルドはがっくりと頭を垂れ、捕り物帳はこれでお開きとなった。
* * *
ハルバルド海賊団を捕縛したゲーダムは、雇われ兵に命じて連行の手配を整えさせていた。
観念しうなだれたハルバルドらとは対照的に、マドロック海賊団は戦勝ムードである。
「まさか魔法戦士団と組むことになる思わなかったけど、あんた、大手柄じゃないか」
親し気に話しかけるフレンジーを、ゲーダムはジロリと睨みつけた。
「組んだ覚えなどない!」
怒気が漏れる。フレンジーは思わずたじろいだようだった。冗談や軽口を言う雰囲気ではない。
「ただ利用しただけだ。遺憾ながらな!」
ゲーダムは奥歯をかみしめ、拳を震わせた。
「働きに免じて今回は見逃してやる! だが海賊は海賊。どんなに無害を装おうとも……オレは認めん」
フレンジーは反感をあらわにし、マドロック船長は……複雑な表情のままゲーダムを見つめていた。
雇われ兵と共にハルバルド海賊団を連れて、彼は去っていった。
あとに残されたのはマドロック海賊団、私とリルリラ、猫である。
「いちいち気に障ることを言うヤツだね」
フレンジーは去っていく背中に悪態をついた。
そして唇の端を上げ、意味ありげに私に向けて視線を送った。
「魔法戦士ってのはもっとオシャレでスマートな連中だと思ってたよ」
「……同感です」
私は目を合わせずに腕を組んだ。彼女にもバレている、か。
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が、それはいい。それ以上にゲーダムのことが気にかかった。
魔法戦士団には潔癖なタイプの団員も少なくない。海賊を毛嫌いするぐらいなら、理解もできる。
だが彼が時折見せる暗い眼光は何だろう。嫌悪よりも憎悪に近い感情をそこに見てしまうのは、私の考えすぎだろうか……。
「ともあれ、一件落着だ~よね!」
ペッペチ先輩がブーメランを腰に納める。仇敵は逮捕、地図の残り半分も手に入れ、あとは宝探しに精を出すのみだ。持つ者は海の全てを支配すると噂される海神の秘宝。
「別に支配なんてしたくないけどな」
「そ、ロマンロマン」
船長が地図をつなぎ合わせ、プクリポがそれを覗き込む。彼らにとってはここからが本番だ。
だがゲーダムの任務は終わり、私の方も……これ以上の調査は不要だろう。
「一件落着、か」
海の溶ける洞窟に勝どきが響き、マドロック海賊団は意気揚々と引き返していった。
ここでハッピーエンドになっていればどんなに良かったか。
本当の事件は、ここから始まっていたのである。