美女たちの聖戦は終わらない。
次に目を引いたのはドワチャッカ大陸から参戦した伝説の三闘士の一角、「震天の槌」ことナンナ氏。ドワチャッカ開拓の立役者の一人だ。
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「閃光の斧」カブや「賢哲の盾」ドルタムとは義兄弟の間柄にあったそうで、特に長兄カブとナンナによる丁々発止のやりとりは、人々に笑いと活気を与えていたのだとか。
現代には珍しいタイプの英雄たちと言えるかもしれない。
彼らはドワチャッカ開拓ののち、それぞれに国を興したとのことだが、恐らくウルベア、ガテリア、古ドルワームがそれにあたるのだろう。
だが、ドワチャッカ大陸の歴史を鑑みるに……。
深く信頼しあった英雄達の子孫が辿った末路は、あまりに悲惨と言わざるを得ない。
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その歴史を知ってなお、彼らはドワーフ族の英雄として、ドワチャッカを守り続けるだろうか。
自分の祖国を守るため、ガテリアを滅ぼした奸臣グルヤンラシュをどう思うだろうか……
クイーン選挙とは別の意味で注目したい人物である。
……ところで、この三闘士。冒険者とは縁浅からぬ人物である。
というのも、あの災厄の王と戦うために必要となった「王者の盾」を守護していたのが、この三闘士の霊だったのだ。
そして噂によればつい最近、過去の時代に災厄の王と戦った伝説的英雄の姿も明らかになったとか……
彼らがどんな会話を交わすのか、この目で見てみたい気もする。ホワイトデーにでも期待しておこうか。
さて、その他、勇者姫アンルシアをはじめとしたおなじみの面々のパフォーマンスを楽しみ、そろそろ投票相手を決めようかというところで……
「き、清き一票、よろしくおねがいしたイト思いまシュル!」
奇妙な顔に出会った。
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「……あ、どうも」
私は軽く会釈する。壇上のプクリポ……的な魔族は、その倍も角度をつけてお辞儀を返した。
「このたびあつかましクモ、この場に参上シュルことになりました。ウェブニーでシュ!」
ウェブニー嬢は緊張に汗を垂らしながらピョコピョコと飛び跳ねた。私は笑顔を返しながら猫とリルリラに耳打ちした。
「……おい、彼女、誰だったか……?」
「しらんニャー」
「えっと……有名な人だよ多分……」
パンフレットをめくる。
バルディスタの兵士で……呪いでクモにされた経験あり。現在は密偵となるべく修行中……
「……堂々と密偵と書いてあるが、大丈夫なのかこれ」
「ミラージュも似たようなもんでしょ」
「えっ、アナタもスパイだーったんでシュか!」
ウェブニーが飛び跳ねる。
「くしクモこんな所で密偵仲間と出会うなんて! どうぞよろシュル!」
「いや……他国の密偵同士が仲良くするのは、やめておいた方がいいと思うが」
「そうでシュルか……シッパイだーったでシュ……」
ウェブニーはしょんぼり。かわいそうなので一票ぐらいは入れておくことにしよう。
リルリラがさらにパンフレットをめくり、おおー、と歓声をあげる。
「ウェブニーさん、48人からなる予選でヴァレリアさんを破って2位で本選出場したんだって!」
「そりゃ、凄いな……」
どう考えても一般人に過ぎないはずなのだが……熱烈なファンが多いのか?
下馬評によれば、壇上でひときわ輝く天使殿も、過去の英雄たちもまだ本格的な活躍を見せていないということで、票は割れ気味との噂だ。
冗談抜きで、彼女がクイーンになる未来もあるかもしれない。
過去にもヒストリカ女史や「あの」リーネのように、ダークホースが勝利を掴んだ例はある。
「ムシろチャンスかもな」
「めざせイットー賞!」
と、いうわけで、とりあえず私はウェブニーに1票、残りをリナーシェ様に入れることにした。
はたして冬空に紫色のクモは舞うのか。
まずは中間発表に注目することにしよう。