なりきり冒険日誌~少女探偵ルベカちゃん
「その真実、いただきます!」

耳をなでる美しい声がそういった。
ルベカがこのセリフを口にしたなら、逆らわず推理を聞くのが子供のころからのルールだ。彼女は滑らかに舌を動かし、たった一つの冴えたやり方を言い当てるだろう。
それがどこかの叙事詩か、冒険小説からの借り物の言葉だったとしても、黙って聞くのがルールである。違反者には彼女の機嫌を損ねるという、恐ろしい罰則が待っている。
探偵ごっこ。私は久しぶりに彼女の遊びに付き合わされていた。
懐かしいはずなのに、不思議とそういう気がしないのは、魔法戦士として各地を飛び回っている私も、探偵と似たようなものだからか。
ここは私の故郷、レーンの村。懐かしいこの場所に帰ってきてから、既に数日がたっていた。
積もる話とはよく言ったもので、久しぶりに帰ってきた私の耳に、様々な話が舞い込んできた。

幼馴染のアーシクは美人の細君と、よろしくやっているらしい。
奥方のキールさんはジュレットの生まれだが、あの都会からこの片田舎にやってきて嫌な顔一つしない出来た娘である。アーシクの嫁にしておくにはもったいないくらいだ。
二人の結婚にはひと騒動あったのだが……その話に触れた時、ルベカの中の探偵魂が目を覚ましてしまった。
50年前に死んだ一人の花嫁。
アーシクの結婚にもかかわった、そのいわくつきの謎を追い始めるルベカ。私は助手役を仰せつかったというわけだ。
ところで花嫁と言えば、ルベカもそろそろ適齢期なのだが、そういう話はまだないらしい。
決して器量が悪いわけではないのだが……いや、むしろ……コホン、つまり、身内のひいき目を差し引いても、まぁ、悪くはない……。十人が十人振り向くという美貌ではないにしても、童顔ながらそれなりに、そう、それなりに整った容貌である、と言ってよいだろう。
だが容姿以上に彼女の魅力はその声にある。
彼女の美声に思わず振り向いて人生を狂わせたウェディの数は、一説には5ケタを下らないとか……

閑話休題。
50年前の住民名簿を求めて洞窟に赴いたり、かと思えば古い子守唄に謎を求めたりと、我らが名探偵の頭脳は縦横無尽だ。
時々頭の中に妙な声が聞こえる、などと言い出すのは新しい芸風だろうか? 確か少女探偵ものだったはずだが、霊感少女の要素も取り入れてみたとか……。
ルベカがいつも真似ているのは美少女探偵キララちゃんという少女向け小説で、私も読まされたことがある。アーシクなどはすっかり夢中になってしまい、結婚した今でも、その本が本棚に大事にしまわれているそうだ。
決め台詞ももちろん、そこからの引用である。
彼女の演技はなかなかの本格派で、声のトーンも低くなるし、口調も変わる。ベッキーの探偵モード、と私はひそかに呼んでいる。
よくもまぁ、こんな遊びに付き合って、と呆れる向きもあるだろう。
だが、子供のころから一緒だった幼馴染のうち私とヒューザは村を旅立ち、結婚したアーシクは奥方に夢中。
要するに彼女は寂しいのだ。
そう思えば、冷たくするわけにもいかなかった。
それに私自身、久しぶりの遊びを楽しむ気持ちもあった。
しょせん遊びだから、と仲間も雇わず防具もつけず、平服のまま活動していたため、あやうく古代土わらしに後れを取るところだったが、それも笑い話だ。
そう、この時はまだ、気楽なごっこ遊びのつもりだった。