なりきり冒険日誌~少女探偵ルベカちゃん(2)
アストルティアの景色は常に移り変わっている。
太陽と月の運行により空は変化を続け、地上を行き交う旅人たちと魔物たちが日々景色を塗り替える。風景写真を撮る者にとって、それが悩みの種であり、また楽しみでもある。
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今、コルットの空は、夕焼けの中に夜の気配をにじませた、憂鬱な色に染まっていた。
海は不気味なまでに青く、潮風は今日に限って生暖かくまとわりついてきた。
50年前の事件を追う中で、我々はレーンの村に伝わる古い子守唄を聞いた。
眠れ眠れ 今すぐ眠れ
眠らないと聞こえてくる
お前が死ぬと聞こえるあの声
命の輝きが 闇にのまれると
だから良い子よ
名前を呼ばれるその前に眠れ
意訳:早く眠れ。さもなくば死ね。
子供を寝かしつけたいのは分かるが、あまりに必死すぎるだろう。子供のトラウマになったらどうするのか。
幸いにして私はこの子守唄を聞いたことはなかったが……。ただ、早く寝ないと猫がやって来て食べられるぞ、と脅された記憶ならある。子供を寝かしつけるときには脅すのが常套手段なのかもしれない。
……だが、どうもそういう冗談を言っている場合ではなくなってきたようだ。
子守唄に隠された50年前の真実。死を予言する幼い少女。死んだ花嫁。村人たちの怖れ。怖れは憎しみに変わり、起きてはならない事件が……。
我々の探偵ごっこはこの村が眠らせていた、恐るべきものを掘り起こしてしまったようだ。
ルベカも平静ではいられない。
私をミラージュくん、と呼ぶのは探偵モードの彼女だが、声のトーンが高いままだ。キャラがぶれている。余程のショックだったらしい。
自分の育った村、毎日を仲間と共に笑いあい暮らした孤児院。そこには陰惨な過去があった。それを知らずに過ごしてきた私自身に恐怖する。私自身の日常に恐怖する。
桜の木の下には死体が眠っている、という言い伝えをカミハルムイで聞いた。その時と同じ感覚が襲ってきた。
隠された日記。ただ一人、少女を救おうとした男。その存在は衆愚に彩られた陰鬱な物語に一筋の光明を与えたかに見えた。
だが、彼は失敗した。
そしてルベカの頭に響いてくる少女の声。
どうやらとんだ里帰りになってしまったようだ。
だが、もはやこれはごっこ遊びではない。レーンの村の一員として、立ち向かわなければならない過去に立ち向かう。
ルベカの探偵ごっこは、贖罪と、真実を探るための旅へと、その姿を変えていたのである。