なりきり冒険日誌~少女探偵ルベカちゃん(3)
地の底まで突き抜けるような大瀑布。降り注ぐ轟音が飛沫の彼方に消えていく。水の鼓動が全てを押し流し、爆音とともに消し去ろうとする。それは命の流れ着く終末をも連想させる。
少女フィーヤの霊を訪ねてブーナー熱帯雨林へ。彼女が身を投げたという大滝の前に私はいた。
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なるほど、ここに飛び込めば、まず助かるまい。
ほどなくしてルベカも追いついてくる。
一人前の証も、ろくな戦闘力も持たない彼女がどうやってここまで辿り着いたのか、非常に疑問だが……。案外、過保護な村長が冒険者を雇って近くで警護させているのかもしれない。
それならば安心だが、しかし……その場合、一挙一動を観察されていたことになるわけで、つまり……
……とりあえず、遠出の時には激しく動いても問題のない服装を選ぶよう、後で忠告しておこう。
少女の霊が語る全ての元凶を退治するため、私は石堂へ向かう。今回は戦闘用の装備を用意し、酒場で冒険者も雇ってある。鉄壁の布陣だ。
解き明かされた真実と、戻らない過去。人々の罪。犠牲。無意味な死。
やりきれない想いを剣にたくし……
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バラバラに砕いてやった。
戦いは終わった。元凶は去り、もう犠牲が増えることはないとルベカは言う。
だが、本当にそうだろうか。
真の元凶は……。
人が生きるうえで必要な臆病さもある。だが弱さと愚かさがそれを攻撃に転じさせた時、善良な人々は悪鬼に変わる。それはこれからも同じだろう。
もはや何の償いにもならないが、レーンの村の出身である私とルベカの手で事件を解決できたことが、せめてものケジメとなってくれればよいと思う。
最後に言葉を取り戻し、親しい人々と共に天に昇っていったフィーヤの冥福を祈る。
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ところで、あの竜は興味深いことをわめいていた。
かつて彼を倒したウェディの戦士に連なるものを手当たり次第に襲っていたとのことだが、それを聞いて私が思い出したのは、かつて王者のマントを身にまとい、暴君を打ち倒した戦士リューデのことだ。
怨念だけの存在となっても、あれだけの力を残していた竜を屠るほどの戦士といえば、ほかに心当たりがない。
そしてリューデの子孫だったヒューザ。
……もし放っておいたら、彼も襲われることになっていたのだろうか? まぁ、奴のことだから心配は無用だろうが……。その場合、ルベカとヒューザも遠い親戚ということになる。まったく、奇妙な縁だ。
事件の解決と共に我らが名探偵は活動を休止し、次は婚活に励むのだという。
……別に急ぐことはないと思うのだが。まだ早いのではないか?
噂ではもう目ぼしい男に声をかけ始めたとか……まったく、切り替えが早いにも程がある。
さて……
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夜。空には未だ、禍つ月が赤い笑みを浮かべている。
つい先ほど、村の郵便局員レリーの元にヴェリナードからの手紙が届いた。
世告げの姫が力を貸してほしいと、各国の冒険者たちに声をかけているらしい。
どうやら、休暇は終わりのようだ。
私としてもフィーヤの昇っていった天に、あんなものをいつまでも浮かべておきたくはない。
災厄の帝王と戦うため、私は再び故郷を旅立つ。
次に村に戻った時、ルベカから恋人を紹介してもらう……そんな展開も、悪くないかな……。