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「レーンの村でスライム探し?」
ここは冒険者の酒場、控室。壁に貼られたチラシ上に踊るのは、妙に平面的なスライムたちのイラスト。私はそれをまじまじと眺めながら隣のドワーフに目線を送った。
コンシェルジュのナナロはテキパキと書類を片付けながら頷いた。
「ええ。第四回隠れスライムフェスティバル……主催はモンスター酒場組合様ですね」
カウンターの奥で魔物管理人レベレが手を振った。モンスター酒場組合は世界宿屋協会とは提携関係にある。だからコンシェルジュのナナロも、この企画に裏方としてかかわっているらしい。
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「そういえばミラージュ様はレーンの出身でしたね」
思い出したようにナナロが言う。私は肩をすくめた。
「こういう身分でなければ、私も参加したかったよ」
窓の外に雲が流れる。今の私は天星郷勤めの協会員。しばらくここから出られない。今頃、祭り好きのルベカや村長が大はしゃぎだろう。
「なら、せめて企画にかかわってみませんか?」
と、ナナロが意外な風を吹かせてきた。隠れスライムフェスティバルも今回で四度目。マンネリ打破のため、新たな発想が求められているのだ。
「スライムの隠し場所ならいくらでも提案できるが……」
「そっちは現地スタッフで間に合ってます。ただ、もうちょっとこう……」
ナナロは首を捻る。
「参加者を惑わすような、驚かせるような、そんな仕組みが欲しいんですよね。ああ、コストと手間はかけずに」
「ムシのいい話だな」
「はい。ムシのいい話を探してます」
何かありませんか、とヌケヌケと言う。
私は頭の中に白い浜辺を思い浮かべた。故郷の景色を。村中を遊び場にして仲間たちと駆け回った、少年時代の思い出を……
そしてその甘くほろ苦い記憶の渦から、一つの閃きが私の岸へと漂着した。
「ア・メタスラッテ・チャウン貝をおいてみるのはどうだ?」
「ア・メタスラッテ・チャウン貝!?」
ナナロはおうむ返しに答えた。
説明しよう。ア・メタスラッテ・チャウン貝はコルレット地方に生息する貝の一種で、くすんだ灰色の貝殻を好んで身にまとう性質を持つ。
普段は何の変哲もない貝にしか見えないが、周囲の者がメタルスライムを探している時のみ、メタルスライムそっくりに擬態する……ように見えることが最大の特徴である。
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「これをあえて掃除せずに放置しておくことで、参加者へのトラップとして……」
「……採用!」
即決である。判断が早い。さっそく現地スタッフに通達。レーンの浜辺に、灰色の貝が次々に増殖していった。
やがて、フェス開幕の日がやってきた。景品のおかげもあって、イベントは盛り上がっているようだ。
私は宿屋協会に一つ貸しを作った形だが……
なにやら視線を感じる。地上から雲ごしに、怨嗟のこもった視線を……
……ウム、きっと気のせい違いない。
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かくして今日も、ア・メタスラッテ・チャウン貝は冒険者たちを惑わしているのである。