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黄金のモミジが石畳に舞い降りる。半ば朽ち、色あせた街道は草花の浸食を受け、まばらに散っていた。
その上を歩く私に、寂しい風がすれ違う。私は足を止め、朽ちた街道を凝視した。
表面のザラついた質感は、いかにも年季の入った古街道といった趣だ。
ラニアッカ断層帯を思い出す。ドワチャッカの歴史を刻んだ遺跡街道。過ぎ去りし時に思いを馳せながら、景色を楽しむ旅もまた一興だ。
だが。
「……最近、作られたんだよな?」
私は隣のエルフに声をかけた。
「そういうことになるよねえ」
エルフのリルリラは困惑気味に頷いた。ひび割れから顔を覗かせた花が、こちらを見上げていた。
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黄金の試練場。読んで字のごとく、天に召された英雄たちに試練を与えるために作られたフィールドである。天使たちが綿密に設計し、作り上げた疑似自然区。
つまりこの朽ちた街道は……最初から朽ちた街道として設計され、生み出されたシロモノというわけだ。
私はため息をつく。これでは歴史も情緒もあったものではない。
「それに、寂しい場所だよね」
リルリラの呟きに、私は頷いた。何しろ……
「この先に、街は無いからな」
天星郷に神都以外の街は無い。街道を行き来する旅人もいないし、商人の荷馬車も、轍の跡さえも見当たらない。
歴史を持たぬ遺跡、旅人のいない街道。冗談のようなこの景色はしかし、天使たちの自信作に違いないのだ。
私は天使クリュトスの自信の笑みを思い出した。
木の葉がまっすぐに落ちていった。
*
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ファボル鉱山は、奇妙な場所だった。
薄暗い坑道を照らす松明、壁は落石防止用の土留め板に覆われ、その奥から鉱石の鈍い光が反射する。
タルや土袋、つるはしにトロッコ。鉱山を名乗るために必要な資材一式が完璧に並ぶ。
だが足りないものが一つ。
「鉱夫は不在、か」
私は肩をすくめた。これも鉱山もまた、あの街道と同じく地上の鉱山を模して造られた人工のフィールドに違いないのだ。
これから私はこの人工鉱山唯一の鉱夫としてつるはしを振るうことになる。それは控えめに言っても馬鹿馬鹿しい滑稽劇で……喜劇役者か人形にでもなったような気分だった。
「でもさ」
とリルリラは言う。
「ここで鉱石が採れるなら、ここってホンモノの鉱山なんじゃない?」
私はつるはしを持つ手を止めて、フム、と首を傾げた。確かに一理ある。
だとしたら試練のフィールドは、元々天界に存在した鉱山地域を加工する形で作られたのか?
しかしあの天使たちが鉱山でつるはしを振るっていたとも考えづらい。
「実はこの鉱石自体、英雄の試練のために天使が埋め込んだものだったりしないか?」
果たして、どこまでが作り物なのか……よくわからなくなってきた。
私が地質学者なら土の成分から真実を割り出せるのかもしれないが、残念ながら私は一介の魔法戦士に過ぎない。
できるのは、露出した地肌から一つまみの鉱石を掘り出し、持ち帰ることだけだった。