なりきり冒険日誌~動き出した時間(2)
斧の祭壇を見下ろして、赤い月が笑う。ここはラニアッカ断層帯。古代の転送装置が眠る場所だ。これを起動させる鍵がダオ皇子謹製、三闘士の斧。
斧の材料探しは非常に手間のかかる作業だった。
相変わらず道中に危険は無いが、モリナラ大森林とグレン領の往復は体にこたえる。ましてグレン領の方は夜にしか現れない魔物が材料を持っているというのだから、苦労も倍増である。夜明けを目前にかろうじて入手できたが、太陽がもう少し早起きなら、私は途方に暮れていたところだ。
このような苦労にもめげず、私が献身的に働いているのは、何もチリやダオ皇子に義理立てするからではない。
ドルワーム王国に対して、我がヴェリナードは多大なる負債がある。銭金ではなく、道義において。
まだ記憶に新しい事件だ。我が国の衛士を務める若者が、あろうことか魔物商人と手を組んでドルワーム王国を襲わせようとしたのである。
諸事情あって未然に防がれ、明るみに出ることはなかったが、許されざる暴挙だ。当然、衛士は極刑に値するのだが女王陛下の限りない慈悲と副団長の判断により、命だけは助けられた。
無論、女王には深慮あっての処断であろうから、それを批判する気などさらさら無いが、わだかまりが無いといえば嘘になる。
法は人を許すことができるが、人が人を許すのは難しいのだ。
その負い目が私を突き動かしている。ドルワームに危機が迫っているというなら、わが身を粉ににしても働かざるを得ない。
果たして材料は集まり、ダオ皇子はガラクタ屋敷に集められた遺物を利用して三闘士の斧を作り出した。やはりあのガラクタ、見るべきものが見れば宝の山かもしれない。
ダオ皇子が斧を掲げると、我々の体は光に包まれる。
次の瞬間、我々はカルサドラ火山の火口付近にいた。