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フォースマエストロ

ミラージュ

[ミラージュ]

キャラID
: DX235-898
種 族
: ウェディ
性 別
: 男
職 業
: 魔法戦士
レベル
: 133

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ミラージュの冒険日誌

2022-12-30 19:08:43.0 2022-12-30 20:31:28.0テーマ:その他

魔法戦士と渦中の王たち(15)【注:ver6.1までのストーリー記述有】

 こうして、ジュレイダ連塔遺跡の悪霊騒動は幕を閉じた。
 報告書を書きながらトレジャーハンターのテゾーロ氏にことの次第を説明すると、氏は大いに頷いた。 「わかるよ……。愛とは度し難きもの。愛ゆえに憎み、その相手に手をかけることもある……それが愛というものさ」
「そういうものかね」

 私はあえて軽く受け流した。言葉にすれば、何もかも安っぽくなる。だからあえて話を逸らす。

「王たるものの宿業、でもあるだろうな」

 リナーシェ様にとって完璧を演じることは必然だった。その完璧さを見たヴィゴレーが彼女を信じきれなかったのもまた必然と思えた。
 そして私はディオーレ女王陛下を思い、オーディス王子のことを思う。
 完璧な演技をほぐしてくれる伴侶と巡り会ったディオーレ様。完璧を演じるには未だ遠いオーディス王子。王は常に歴史の渦中にある。それぞれのやり方で時代を泳ぎ切るしかないのだ。

「ところで」

 と、テゾーロは切り出した。
 ことの発端となった盗掘者の始末についてだ。
 名をキャスランという。
 単なる墓盗人ではなく、余罪がある。それも、相当な。

「暴君バサグランデを復活させた張本人とはな……」
 私はため息をついた。
 ウェナを壊滅の危機にさらした指名手配の重罪人である。当然、お縄となった。
 だがテゾーロは意外にも、彼女の減刑嘆願を申し出たのだ。
 そして私にも、そのための署名に協力してほしいと。

「彼女は不幸な境遇に育ったせいで人の痛みが分からないだけなんだ」
「ふうむ?」

 私は首を傾げた。
 彼は彼女の生い立ちをとうとうと語った。それなりに同情を誘う話ではあった。
 だが、だからといって罪が消えるというものでもない。コソ泥程度の話ならまだしも、彼女の罪は大きすぎる。

「せめて彼女が前非を悔いて、心から償おうとしてるなら多少は考慮するんだが……」

 私は捕らえられたキャスランを一瞥した。観念してはいるようだが、反省の弁はこれといって見られなかった。

「残念だが、私が減刑を願う理由は無いと言わざるを得ないな」
「……そうか」

 テゾーロは肩を落とした。だが彼は諦めたわけではない。彼は他の関係者にも署名を嘆願し、勇者の盟友殿にも協力を仰ぐと言っていた。
 盟友殿がどんな判断を下すのか、それは本人だけが知っていることである。

「しかし貴公は何故、彼女を?」

 私の素朴な疑問だった。彼にそんな義理は無いはずなのだが……
 テゾーロは片目をつぶり、肩をすくめた。

「言っただろう? 愛とは度し難い感情だと」
「はあ?」

 私はあんぐりと口を開いた。

「愛した人を手にかけることもあれば、見知らぬ他人を必死で助けることもある。それが愛なのさ」
「つまり……」

 私はキャスランとテゾーロを交互に見つめた。
 地下遺跡。悪霊に追われる女。そこに現れたトレジャーハンター。

「……つまり、吊り橋効果という奴だな?」
「そういうことを言う奴はモテないぞ」  テゾーロはジト目で私を睨んだ。私は大きなため息をつき、肩を落とした。なんとも……馬鹿馬鹿しい。

「要は色香に惑わされた、と」
「もう一度言うが、モテないぞ」

 彼は私に背を向けると、情熱的に王立調査団の団員や他の関係者を説得し始めた。
 そこに論理的な正しさなど無い。ただ惚れた女を救いたいというエゴがあるだけだ。
 私は大いに呆れたが……包み隠さぬエゴを貫ける男は嫌いではなかった。
 テゾーロの大演説が風に乗る。
 私は白紙の署名欄を一瞥する。
 薄い紙きれは、ヒラヒラと風に揺れていた。

 *

 後で聞いた話によれば、集まった署名とテゾーロの献身的な弁護により、キャスランは死罪を免れたそうである。もちろん無罪とはいかないが、罪の大きさを考えれば異例のことと言って良い。
 テゾーロ自身、"潮騒の宝石箱"発見の功労者であり、ウェナの平和に貢献した男である。そのあたりの功績を考慮しての采配だろう。
 ことの顛末を聞いたエルフのリルリラは、

「うーん、ロマンチックだねえ」

 と、雑にまとめた。

「馬鹿馬鹿しいともいうぞ」

 私は肩をすくめた。

「いいじゃない。シリアスばっかりじゃ、息が詰まっちゃう」

 エルフは背中を伸ばす。

「まぁ……真面目な悲劇よりはマシか」

 愛の物語など所詮、どちらに転んでも馬鹿馬鹿しいものなのかもしれなかった。
 私はソファに寝転がり、潮騒に耳を傾けた。
 空は海を映したような青に染まり、潮風は冬の空気を運んでくる。
 音叉の音は、もう聞こえない。
 海の色の宝石は、深い闇の中で永遠に眠り続けるだろう。
(魔法戦士と渦中の王たち、了)
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