見回りの天使兵に呼ばれ、ハルルートは席を立った。何か連絡があったようだ。
私は酒盛りの……もとい、作戦会議の方に視線を戻した。酒に負けた連中には、ザメハとキアリーと減俸だ。
「やはり本命は神殿の方か?」
「でしょうね」
オーガとエルフが頷きあう。結界を解かれたとこしえの神殿。我々にも詳細は明かされていないが、天星郷の最重要拠点だ。
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「神都が狙いなら、もっと攻め方に工夫があるはずです」
「だとすれば問題ない」
と、天使兵は断言する。
「結界の解かれた神殿は主力部隊が直接防衛に当たってるからな」
「本当に大丈夫かねえ」
ドワーフが気だるげに肩をすくめた。
「そっちの部隊は全員天使なんだろ? 実戦慣れしてないんじゃないの?」
「天使長自らが指揮する精鋭部隊だぞ」
天使は反論する。が、ドワーフはグラスを揺らした。からかうような笑みを浮かべる。
「模擬戦のエースねえ。そりゃ、優秀なんだろうけどさ」
さすがに天使は気分を害したようだ。料理皿も空きが目立つ。
「フェディーラ様もいるんだよね」
と、ザメハの傍ら、リルリラが口をはさむ。天使フェディーラ。審判の天使。そしてリアルクッキングエンジェル。天界の酒場で給仕係をしていたリルリラは料理好きのエリート天使と親交があった。
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「久しぶりに会いに行っちゃダメかなあ。あ、差し入れも!」
「差し入れはともかく、地上人をそちらにも派遣するのは悪くない案だな」
私は頷いた。偏った編成は事故の元。冒険者には暗黙の了解である。
「さすがに神殿に地上人を立ち入らせるわけには……」
天使は難しい顔をした。連合軍の弱みである。何も天使に限った話ではない。我々魔法戦士団も他国と共同戦線を張るたびに、この手の問題に悩まされる。機密が、立場が、誇りが……
様々なしがらみに縛られて、現場から見れば明らかに最善とは言えない手を、あえて打たざるを得ないこともある。天使も肩をすくめた。
「我々の権限では口出しできんレベルの話なのだ。とはいえ、君たちの英雄殿も別動隊として動いてくれてるし、よほどのことがない限りは大丈夫だと思うぞ」
「エックスさんか……」
私は腕を組んだ。
「確かに、戦力としてはこの上ない布陣だが……」
卓上に頬杖を突き、しばし瞑目。
「気になるのか?」
「戦力以前の話として、な……」
私はテーブルを指で叩く。
「対応が素直すぎるとは思わないか?」
天使たちは顔を見合わせた。
会議に飽きた猫が、舟をこぎ始めていた。