なりきり冒険日誌~ドン・キホーテの戦い
同盟を組まず闇の溢る世界へと赴く。その無謀に付き合ってくれるのは、酒場で雇った戦士たちぐらいのものだ。
仲間を求め、さっそく酒場へ。
魔法戦士の強みは何か。バイキルトの呪文とギガスラッシュによる範囲攻撃、そしてMPパサーが挙げられるだろう。
では魔法戦士の弱みは何か。回復や蘇生、そして単体相手の攻撃力の低さだ。
ゆえに僧侶が二人に武闘家が一人。
魔法戦士として酒場の仲間たちの指揮をとるのであれば、これがベストメンバーではないかと私は思っている。
災厄の王との決戦にむけ、当然のように彼らを雇い入れる。
それが大きな間違いであることに私は気づいていなかった。
闇の溢る世界。それは読んで字のごとく、闇の世界そのものだった。月や星すら輝かぬ真の闇とはどういうものか、ここに来ればよく分かる。どんなに目を凝らしても何も見えない。無の世界だ。
世告げの姫たちの力で光を灯し、かろうじて一時的な活動が可能になる。失われた古代の呪文、レミーラだろうか?
世界が真の闇に還る前に、帝王の元まで辿り着かねばならない。時間制限の中、我々の探索は始まった。
全ての敵を倒さねば先に進めない構造は魔法の迷宮を思わせる。連戦に次ぐ連戦。二組のパーティで掃討すべきところを我々だけで戦うのだから、その苦労も二倍……この時の私はその程度に思っていた。
闇の世界と呼ばれるだけあって、光の力を苦手とする敵が多い。しかもどこから湧いてくるのやら、その数は凄まじい。となれば片手剣の使い手としてはギガスラッシュを連打せざるをえない。
200本ほど買い込んだ魔法の小瓶が最後までもってくれることを祈りつつ私は剣を振るい続けた。
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地下3階まで辿り着いたところで、私の胸に不安がよぎる。
間に合うのだろうか?
敵の強さ自体は、特別なものではない。確かに強力だが、地上で見かける強敵たちと大差ないレベルだ。連戦による魔力の消耗も小瓶でフォローできる。
だが、時間だけはどうしようもない。
広大な迷宮を歩き回るだけでも相当の時間を食う上に2倍の敵と戦わなければならない。これは深刻な問題だ。
二つに分かれた道の一つを踏破し、封印された扉の前へ。ここからもう片方の道を戻りながら敵を殲滅する。……その目論見はあっさりと打ち砕かれた。
もう片方の道は上から飛び降りる形で扉の間へとつながっていたのだ。
ここから引き返すことはできない。
つまり、敵を殲滅するため、私はやってきた道を引き返して、最初の間からもう一度、別の道を進まなければならないわけだ。
この迷宮を作った人物は精神が歪んでいるに違いない。
焦燥が胸を焦がす。二つの道。敵の殲滅。この両者が重なり合い、同盟を組まずに戦う者をふるい落す。
地下4階。私は一縷の希望を抱いていた。
魔法の迷宮ならばここが最後のフロア。ここで終わってくれるならば、姫たちの呪文にもまだ余裕がある。
しかも広大な迷宮とは違い、意味ありげな小部屋だけが配置されている。
いかにも最後の間。そう思わせる作りだ。
……が、期待は打ち砕かれた。
地下5階。無情にも広がる大迷宮を我々は駆け抜ける。
敵の半ばを倒したところで、ロディアの声が届く。呪文の効果切れが近いと。
焦る。
そして後悔が胸をよぎる。
僧侶二人を採用したのは帝王の激しい攻撃を想定したためだが、今、必要なのは回復力ではない。
殲滅速度を重視したパーティ構成が必要だったのだ。
地下5階を踏破し、扉に触れる。これが最後であってくれ。
その祈りは……
地の底からでは、神に届かなかったようだ。
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地下6階。
残り7匹の魔物を残したまま、時は訪れてしまった。
姫たちの魔力が私を呼び戻す。
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失敗。
挫折。
闇の溢る世界は、私の想像を超えて凶悪だった。
私は災厄の帝王の顔を拝むことすらできなかった。
後に残ったのは空虚な敗北感と、空になった200本の小瓶だけだった。