なりきり冒険日誌~動き出した時間(4)
皇子からの最後の依頼は、亡きガテリア皇国の遺跡に連れて行ってくれ、というものだった。
国の末路をその目で確かめたいらしい。
だが、名前すら残っていない古代王国の遺跡など、雲をつかむような話だ。
……と思っていたのだが、意外にも皇子自らがその場所を知っていた。
ドルワームの西、ボロヌス溶岩流。確かにかの地には最果ての地下遺跡と呼ばれる遺跡がある。考古学者たちが何度か調査したはずだが、どのような文明の遺跡なのか未だ解明されていない。
この少年を考古学者の前に引き合わせたら一大センセーションを巻き起こせるかもしれない。
ともかく、そういうわけで私は今、最果ての遺跡、かつてのガテリア皇国にいる。
ついに見つけてくれたな、とは皇子の言葉だが、私はただ移動しただけだ。何の感慨も達成感もない。
遺跡内は荒れ果てて魔物の巣窟となっていた。
さすがにこの最果ての地まで来ると敵も手ごわく、まともに戦えばそれなりの消耗を覚悟しなければならない。
……まぁ、まともに戦う理由は一つもないのだが。
ガルバ、ゴルバといった魔物はなかなか歯ごたえもあり、条件さえ整えれば修業にも使えそうな場所である。
つい先ほども、修業のためここに籠っている冒険者数名とすれ違った。
かつての王宮を修業場にされた皇子の胸中やいかに。
ともあれ、玉座の間に忍びこんでいた魔物も無事撃退し、これで一件落着といいたいところだが……。
皇子はこの場所で死ぬのが望みだと言い出した。
冗談ではない。
そんな用のために私を引きずり回してくれたのかと思うと腹が立つよりあきれ返ってものも言えない。
まして、つい先ほど命を狙ってきた魔物に怯えていたのは誰だというのか。
その境遇ゆえつらく当たるのは避けていた私だが、さすがに甘えるなと一喝させてもらった。
もっとも、私は武闘家ではないので皇子のショックもほどほど、私のテンションも上がらなかった。
かびくさい遺跡の壁に怒声がこだまし、気まずい空気が流れる中、唐突に一通の手紙が届いた。
郵便屋は巨神兵。あて先は現代の皇子。
過去からの手紙だった。