なりきり冒険日誌~動き出した時間(5)
機械文明の発展の末、滅亡した二つの国。
彼らが最後に残したのは、自然に還れというメッセージだった。
そのメッセージを受け取ったダオ皇子はしばし呆然自失としていたが、やがて自分のやるべきことを決意したらしい。
師より受け取った種を植え、育てるために旅に出るという。
その決断は尊重すべきだろう。
去っていく皇子を私は見送り、旅の無事を祈るとともに儚くも消えていった古代文明に対し黙祷した。
はたして皇子はこれからどのような生を紡ぐのか。
玉座の間の外は魔物だらけだが、生き延びることはできるのか。
商才の無さそうな少年だが、花壇や土地を買う金は用意できるのか。
様々な思いが胸をよぎったが、考えてもきりがあるまい。
私は一言、がんばれよ、とつぶやいてその場を後にした。
……徒歩で。
そう、私はうっかり忘れていたのだ、思い出の鈴のストックが切れていたことを。
仲間たちの冷ややかな視線を浴びながら遺跡を駆け抜ける。
もはやダオ少年への心配など、彼方へ吹っ飛んでいた。