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もう何十年も前のこと、この鉱山で採れる希少鉱石アラモンド鉱に甘味料としての用途が発見されたことで、アラモンドの黄金時代が始まる。鉱山には一獲千金を求める工夫達が集まり、鉱山都市が発展。出荷された鉱石はプクランド各地でアラモン糖として加工され、スイーツ業界を震撼させた。アラモン糖が生み出す味は天使の微笑み。それはアラモンドという田舎町に舞い降りた幸運の女神でもあった。
だがアラモンドに悲劇をもたらした悪魔の名もまた、アラモン糖だった。
アラモン糖のあまりの美味は大量のリピーターを生み、もはやアラモン糖中毒とさえ呼ばれるような状態だった。
メギストリス国民の4割がアラモン糖の過剰摂取による肥満と健康被害に悩まされ、それでもなおアラモン糖を求め続ける有様。ことここに至って若きプーポッパン王はアラモン糖を違法薬物に認定。アラモンスイーツはご禁制の品となった。
アラモンド町長は一転して批判の槍玉にあげられ、鉱山は閉鎖。大量の失業者を生み、鉱山街はゴーストタウンへ。『くたばれ、プーポッパン!』……道中の壁に何度も書かれていた落書きだ。
だが数十年の時を経た今、スラムと化したアラモンドに再生の光が灯る。
バズスイーツカフェ。悪魔の名を冠したこの店が、アラモンドの新しい希望となる。
始まりと終わり、そして再生のアラモン糖。店長肝いりの新作には、そうした決意表明が込められているのだ。
……以上、スイーツ侍アマスキー氏による解説である。
「いやいや少し語りすぎましたな。それがし汗顔の至りにござる」
店員はニコニコ顔で彼の演説を聞いていたが、足元が若干床を叩いている。ちょっとやりすぎだったようだ。
彼女は業務に戻りたがっている。一方サムライはまだ語り足りない様子。
双方の需要を満たしてやるのは、世のため人の為と言えるのではなかろうか?
「貴公、相当の通のようですな」
私はオーガの客に話しかけた。ピコはほっとした顔で頭を下げ、厨房に戻った。スイーツ侍アマスキーは赤い顔をさらに赤らめつつ頭をかいた。
「いやいや、それがしコレだけが趣味でござる故……」
「もしやオーグリードから?」
「この味の為なら、旅の苦労も惜しくはないでござるよ。おたく様も、もしやウェナから……」
「私は付き添いでね……エルトナからです」
リルリラに目くばせする。エルフの娘は尊大に胸を張って見せた。
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「うむ、長旅は疲れたがそれだけの価値はありそうじゃ」
そしてさりげなくキーワードを切り出す。
「しかしあの砂嵐には驚いたのう、オトモの者よ」
私は深く頷き、スイーツ侍の顔色を窺った。アマスキーは腕を組み、深く頷いた。
「確かにアレには参り申した」
「ほう、貴公も遭遇されましたか」
「うむ、尋常の砂嵐とは思えぬ大竜巻でござったなあ」
私はスイーツ侍と談笑すると見せかけて、密かに周囲に視線を走らせていた。
お忍びと思しき二人組は無反応。地元民らしきプクリポたちは……目を逸らしたように見えたのは、気のせいか?
後ろを通ったウェイトレスの皿がカチリと音を立てる。偶然だろう。多分。
「そういえばしばらく前に、このあたりに流星が落ちたとか」
私が次のキーワードを切り出す。またもカチリ。耳ヒレに音が響く。
「何か関係があるのですかな……」
「ウーム。それがし見当もつき申さぬが、ここに通いづらくなるのは勘弁してほしいでござるなあ」
「お待ちどうさま~~!」
と、我々の会話を『遮る様に』、ウェイトレスがドーナツを運んできた。我々とスイーツ侍、両方の席にだ。
「おっと、これは全力で賞味すべき案件でござるな」
アマスキーは我々に軽く頭を下げると、再び皿の上に両目を注ぎ始めた。
「うむ、わらわ達も頂くとしようぞ」
リルリラは目を輝かせながら皿の上のスイーツを凝視する。
甘い香りがテーブルの上を漂い始めた。