モヒカンヘアーが天を突き、握った拳がプルプルと震える。
背後に並ぶ他の若者達も似たようなものだった。華やかなカフェに剣呑な空気が流れる。
さてどうしたものか。私はドリンクを口にしながら思案した。情報収集も終わっていない今、荒事をおこしたくはないのだが。
「やい、てめぇ!」
考えがまとまらぬ内に、モヒカンヘアーが私に詰め寄ってきた。どうも……穏やかには終わらないらしい。
私が椅子から腰を浮かせようとした、その瞬間。
「ア・ン・タたち!」
いきり立つモヒカンの前に立ちふさがったのは、ウェイトレスのピコだった。
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ストリートキッズは表情を歪めた。私は……浮かした腰をもう一度深く椅子に沈め、ストローを口に含んだ。
「アンタたち、ひょっとしてぇ、ウチのお客さんに手ぇ出したワケェ!?」
モヒカンはピコの剣幕に押され、後ずさりした。
「い、いや……ここの客だなんて知るワケねえじゃん!」
自然と、その後ろに溜まっていた荒くれたちも後ずさる。
ピコが足を踏み出すたびに、ひと固まりのプクリポ達がステップを踏むように後退した。
意外な展開にスイーツ侍は呆気にとられ、リルリラはクスリと笑った。
「盗ったもの全部返しなさいッ!」
「バカ! これが上手くやった顔に見えるかよ、ホラ!」
生傷を見せつける。プクリポ達はしばらくステップを踏みあったが、私とリルリラの証言もあり、ようやくピコは納得したようだ。
だがまだ怒りの面は解かない。
「いい? 次にこんなことしたら……」
彼女はキッとモヒカンたちを睨み付け、小さな指を突きつけた。
「半年間オヤツ抜きだからねッ!」
「ええっ……半年間……!?」
ストリートキッズは絶望に慄いた。
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何を戯れたことを、と普通なら呆れ、ため息をつくのだろうが、あのスイーツを味わってしまった以上、話は別だ。
あの深く優しい味を……緩急織り交ぜた食感のメドレーを半年間お預け……筆舌に尽くしがたい苦痛に違いない。
……そういうわけで、アラモンドのストリートキッズは我々の新しい友人となった。
まず、何よりのことである。
*
喫茶バズスイーツカフェに甘く穏やかな空気が戻ってきた。
テーブルに新たな皿が届く。
我々は迷惑料として本日の料金を無料にしてもらったうえ、追加のデザートもサービスしてもらった。
「いやぁ、得してしまったでごじゃるなあ」
リルリラなど、完全に役得に浸っている。演技にしても語尾がおかしい。
「ほれ、オトモよ。お前も食べると良いぞよ」
勧められて私もスプーンを手にした。流星をあしらった盛り付け。件の新メニュー、"流れ星の帝王"だ。
シュワッと弾けるラムネと甘いチョコレートが交互に口内を駆け巡る。新食感とでも言うべきか。刺激的で、しかしどこか優しく安心する味だ。堪能する我々を見て食欲を抑えきれなくなったのか、スイーツ侍も同じものを追加注文する。
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「そうか、これが新しいボスのためのメニュー……」
ひとしきり味わった後で、私は呟く。ピコが頷いた。
「そうそう! 最高にハイ!でウェーイ!って感じでしょ!」
「ウェーイでごじゃります!」
リルリラが同意する。互いに笑い合う。随分と距離が縮まったものだ。
あのストリートキッズには感謝すべきかもしれない。これで地元住民と自然に会話できる土台が生まれたのだから。
私は歯ごたえのあるクッキーをつまみながら、情報収集を開始した。