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「そういえば新しいボス、流星の帝王と呼ばれているんだな」
私はグラスに描かれた流星模様をなぞりながら言った。
「流星といえば最近、このあたりに流れ星が落ちたそうだが……何か関係があるのかな」
「えーと」
ピコは首を傾げた。
「その頃にボスになったから、かな、多分!」
「そういうものか」
私はすんなりと引き下がった。代わりにアマスキーに向かって雑談じみた会話を始める。
「ところで、砂嵐は収まったかな……」
「帰りに巻き込まれるのは勘弁でござるなあ」
ピコの耳がピクッとひきつった。
「あー、ウン……このあたりでは前からちょくちょくあるから……ねえ」
「いや、最近まで無かったと聞くぞ」
「そうでござるな。それがし何度も通ってござるが、こんなことは無かったでござる」
「えっと……」
ピコはストリートキッズに視線をやった。モヒカンヘアーは身振り手振りで、適当に誤魔化すように伝えたようだ。
その身振り手振りを私にも見られているので、あまり意味は無いが……
私はもう一つ踏み込んだ。
「やはり流れ星と関係あるのかな……」
ピコとストリートキッズがこめかみに汗を浮かべる。関係があるらしい。
「ひょっとすると店員殿は、何か知っているのでござるか?」
決定的な一歩を踏み出してくれたのは、スイーツ侍だった。他意のない発言だからこそ、何の気兼ねもなく踏み込める。私は行きずりの友情に感謝した。
「じ、実は……」
ピコとモヒカンが顔を見合わせる。
「あれはよう、その……」
モヒカンが言葉を詰まらせ、足元を見つめ、そしてカッと目を見開いた。
「伝説の砂竜の仕業なんだよ!」
「伝説の砂竜!?」
私はオウム返しに聞き返した。彼は勢いよく手を振り上げ、まくしたてる。
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「そう! 流れ星の影響で、伝説の砂竜が目覚めちまったんだ!」
「どんな伝説なんだ?」
「えっ?」
振り上げた手が止まった。再びピコと視線をかわす。
「その……」
ヒソヒソ。何やら相談。私はドリンクをお替り。
二人の相談がまとまったらしい。彼らは早口にまくしたてた。
「竜が、その……砂を吐く!」
「そう! 砂を吐く!」
「あと走る!」
「めっちゃ走る!」
「人をとって食ったりするのか?」
「えっ?」
私の質問に再び二人は顔を見合わせた。
「いやぁ、それは無いんじゃねえかな……」
「そうそう、被害とかは全然……ちょっと煙たいぐらいで……」
「そうなのか」
私は冷たいドリンクを喉の奥に流し込んだ。
あからさまに怪しい。まるで誰かを庇っているような……
「うむ、面白い!」
と、急に立ち上がったのはリルリラだった。
誰もが注目する中、エルフは両手を腰に当て、胸を張った。
「その伝説、わらわはたいへん興味を惹かれたぞ」
そして私にウインクと共に目線を送る。
「オトモよ、その竜を捕らまえて参れ!」
こうして、私は砂嵐と流れ星について自然と深入りできる立場を得た、わけだ。
一方、ストリートキッズの面々は本日何度目になるか、互いに顔を見合わせ……
そして一斉に笑い始めた。
「そりゃお嬢さん、ムリってもんだぜ」
「そうそう、あの竜を追っかけるなんて」
「ほう、君らのバイクでも無理か?」
私は挑発したつもりだが、彼らは肩をすくめ、苦笑いを浮かべるだけだった。
「無理無理」
「俺らなんかとても……」
まるで"知っている誰か"について語りあっているかのような空気だが……。
モヒカンが挑戦的な視線を私に投げかけた。
「アンタの最新型だって大したもんだけどよ、あの竜にはかないっこねぇぜ」
「フム……」
確かに、砂塵に巻き込まれただけでも相当難儀した。あれを追いかけるとなれば、相当な骨折りとなるだろう。
「だがお嬢様のお望みとあらば諦めるわけにもいかん……増援が要るな」
私は連絡石を片手で弄んだ。
そして数日後。
砂塵逆巻くチョッピ荒野に、心強い援軍が到着した。