天使と私の旅は続く。
メギストリス王国ではラグアス王子と会見し、無事、同盟を結ぶことに成功した。
カンティスもヴェリナードの一件で懲りたのだろう。書類の束を押し付けるようなことはせず、一歩引いた形で議事に臨んだ。
それでも細部のすり合わせには随分苦労もしたし、混乱もあった。
国が違えば種族も違うしやり方も違う。
街を行くプクリポたちの幼児のような愛らしい仕草と、宮廷官僚の鋭く冷徹な態度の落差にも相当悩まされたようだ。
「どうもプクリポという種族には二面性があるらしい」
天使は憮然と呟いた。私は軽く笑みを浮かべた。
「……ま、どの種族も大なり小なりあるでしょうな。私も天星郷では苦労しましたよ」
「……?」
カンティスは何のことだかわからない、とばかりに首を傾げた。私は失笑をこらえるのに苦労せねばならなかった。
高飛車で高圧的。差別主義と思えるほど高慢かと思いきや、妙に律儀で生真面目なところがあり、一度心を開くと逆に素直で従順ですらある。第一印象との落差というなら、彼らも相当なものだった。
「……落差と言えば、あの王……いや、王子か」
と、天使は話題を変えた。メギストリス城の若き君主、ラグアス王子のことだ。
豪奢な玉座にちょこなんと納まる王子の小さな姿には、カンティスも驚いたようだ。
勿論、父王が急逝し跡を継いだことは事前に調べて知っていただろうが、実際に目にすれば感想はまた変わってくるものだ。
「君主があそこまで幼いと、周りも苦労が絶えんのだろうな……」
天使は同情的に眉を垂れ下げ、瞑目した。フム……? 脳をよぎる違和感。私は顎に手を当てた。
確かにラグアス王子は若い。若さを理由に、君主となった今でも王を名乗らず王子で通しているほどだ。
だが……
「どうした?」
カンティスは怪訝そうに私を見た。
「いや、確か王子は……」
指折り数え、私は頷く。
「確か14……いや今は15ぐらいだったか……」
「はっ?」
カンティスは素っ頓狂な声を上げた。宮殿を振り返る。兵士たちが敬礼を返す。慌てて目を逸らしながら彼は唸った。
「7~8歳ぐらいかと思ったぞ……」
「プクリポを見た目で判断すると痛い目を見る、と言いますな」
中央広場をプクリポの群れが走り去っていった。どれが子供でどれが大人なのか、私には見分けがつかない。
ムム、と唸りながらカンティスはそれを目で追う。どこか剽軽なその光景に、私は思わず噴き出した。
「気にする必要はないでしょう。それに一つ言っておくなら、天使の年齢だって、私には分からんのですよ」
小さな住民たちの笑い声を乗せて、静かに風車が回る。
カンティスは大きく息を吐き出しながら、スライム型に刈り込まれた街路樹を見上げるのだった。