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夜の峡谷に、光と闇が拮抗する。
カンティスもまた自ら太刀を振るい、戦っていた。
影の間を光が舞う。跳躍力を生かした立体的な闘法だ。守護騎士とも魔法戦士とも違うその剣技は敵の意表を突き、かく乱する。
戦務室出身は伊達ではない。いち戦士としてのカンティスは、凡百の兵とは比べ物にならない達人だった。
『気に入らぬな』
魔神が天使を一瞥した。と、影がカンティスを取り囲み、一斉に押し潰そうと押し寄せた。
「カンティス!」
私は駆け寄ろうと剣を握り締めた。が、天使は力強い視線を投げ返した。
そしてカンティスを中心に無数の影が重なろうとしたその刹那、閃光が夜を焼いた。
一瞬だけ太陽が現れたかのように、光が凝縮し、空を舞った。
白い羽根が舞い落ちる。真白く染まった空から光弾が次々と放たれ、影を打ち抜いた。
光が収まる。
音もなく着地したカンティスの背に既に羽根は無い。
影の戦士は跡形もなく砕け散っていた。
「ご法度じゃないのか?」
私は揶揄するようにカンティスに声をかけた。地上で天使としての力を振るうのは、禁忌とされている。
「お前たちは眩しくて何も見えなかった。違うか?」
「……違いない」
天使の生真面目な、しかしふてぶてしい回答に私はニヤリと笑った。
夜の闇が無ければ、カンティスの顔にも同じ表情が浮かんでいるのが分かっただろう。地上に来て、良い意味での図太さを身に着けつつあるようだ。
……と、不意に天使が空を見上げた。
「どうした」
「いや……」
彼は首を振った。以前も言っていた。何かの視線を感じると。
だが今は目の前の敵が先だ。魔神の眷属は、なおも湧き出続けていた。
*
僧侶たちの描いた魔法の円環が、力強く輝き始めた。儀式も大詰めだ。
魔神はその意味を理解したようだ。
『グゥゥゥア!!』
獣じみた雄叫びが鳴り響くと、凝縮された闇が、ひときわ巨大な異相の戦士を形作る。
獰猛な牙を持つ野獣の身体を、甲冑にも甲殻にも見える装甲で包み込んだ異形。
騎士たちは身構えた。恐らくはストレザーテ自身のうつし身だろう。怒りに満ちた光が赤く輝く。
『下等な原住民ども……それ以上の無礼は許さぬ!』
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怒声と共に、力任せに腕を振り回す。それだけで、魔法戦士と守護騎士がまとめて吹き飛ばされた。一人や二人ではない、一部隊!
影の戦士達も勢いづき、主と共に戦線を押し上げる。再び戦場の流れが変わろうとしていた。