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磨き込まれた石畳の上を歩く。
雲が、その下を流れていく。
透き通った風が耳ヒレを撫でる。白く清潔な街並みを街路樹代わりに彩るのは、優雅に浮遊する空中プラント。
女神の御業を称えるタイル画が至る所に刻まれ、街一つが巨大な礼拝堂のようだ。
ここは雲上都市フォーリオン。いと高き天使たちの住まう街。
……その澄んだ空気を、かき乱すものがある。
足元をプクリポの群れが通り抜けていく。階段の手すりを滑り降りるドワーフ。水辺では私と同じウェディの吟遊詩人が弾き語りを披露していた。
人間達の他愛のない雑談、あるいはオーガ族の武功話。職人たちは自慢の武具をバザーに出して売れ行きを見守っている。
今、この街には、かつてない数の地上人が集められつつあった。
特に商業区と化した神都中層は、天使よりアストルティア人の方が多いくらいだった。
「前に来た時より、ずっと増えてるよね」
エルフのリルリラが、さすがに驚いた顔で街を眺めた。
「もう天とか地上とか、関係無いニャ」
猫魔道のニャルベルトも、若干呆れ気味だ。
カンティスが結んだ地上との同盟が予想以上の効果を発揮した、ということらしい。
私の見知った顔もあった。オーガ族の聖騎士と声を掛け合う。
なんと魔族の姿さえ見受けられた。さすがに居心地は悪そうだったが、天使も魔族の滞在を受け入れるまでに変わったわけだ。
「変われば変わるものだ、が……」
それはつまり、天星郷がそこまで追いつめられている証拠でもある。
ジア・クトとの戦い。その最終段階が始まろうとしているのだ。
*
私の名はミラージュ。ヴェリナードに仕える魔法戦士である。
アストルティア各国と神都との間に結ばれた同盟条約により、こうしてフォーリオンに派遣されてきた。
来たるべき決戦に向けて、だ。
決戦の始まりを告げたのは、レンダーシアに現れた"巨人"であった。
後から知ったところによると、"念晶巨人"の名で呼ばれるジア・クトの巨大兵器だったらしい。
そしてそれに対抗すべく、英雄達がとった手段が……
「巨大化……か」
「うむ……」
カンティスも信じられないものを語る顔つきで頷いた。
英雄たちはその力を現代の覇者"エックスさん"とその仲間たちに注ぎ、彼らを光の巨人へと変化せしめたのである。
レンダーシア内海を舞台に、巨人たちの戦いが始まった。
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目撃情報は曖昧なものばかりである。何しろ相手は天に届く巨体。身じろぎするたびに波しぶきがあがって視界を遮り、しかも目撃者は混乱と避難の最中だ。
その巨体に反して軽やかに宙を舞い、踊る様に戦っていた……という者もあれば、大陸をも両断する巨大剣を振りかざし、地響きと共に斬りかかったという声もある。
いやいや武器は持たず、猫背の中腰で、手刀や投げ技でいぶし銀の戦いを演じたという証言も……。
ともあれ、地上は大混乱に陥った。
カンティスの結んだ同盟が力を発揮したのはこの時だった。
グランゼドーラ、アラハギーロ両国はすぐさま天星郷より連絡を受け、かねてより準備していた住民の避難計画を実行に移した。
おかげで沿岸部の被害は最小限に抑えられたという。
「備えが無かったらと思うと、ゾッとするな」
私は唾を飲み込んだ。カンティスも同意見のようだ。
一説によると、神々同士が直接戦えば、あまりにも強すぎる力の余波で世界そのものを滅ぼしてしまうという。
英雄とジア・クトの戦闘も、その域に足を踏み入れ始めたのかもしれなかった。
「神域の戦い、か……」
私は空を見上げた。
英雄達とて、無傷とはいかない。勇者アシュレイは既に倒れ、巨人の力も失われた。
もはやフォーリオンで直接、敵の本拠地……"魔眼の月"に乗り込むしかない。
急ぐべきはフォーリオンの動力復元、そして護衛用の小型艇の開発。
「そちらの作業も佳境に入ったそうだ」
カンティスに促され、我々はフォーリオンの一角に設けられた造船所へと向かった。