なりきり冒険日誌~闇に眠りし王(1)
災厄の王討伐に向け、Z氏との約束の時間まで、しばらくの猶予があった。私にとっては準備期間ということになる。
ゴーレック氏の元に向かい、木彫りのロザリオを受け取ると、その足で箱舟に乗り、ガートランドへ。
祭壇に宝珠を捧げ、己自身の力を組み替える。
刃砕きの習得には至らなかったが、戦士としての修業は無駄ではなかった。僅かながら守りの力が増大する。普段の私ならば、大勢に影響なしと切り捨てていた程度の力だが、今回ばかりはそうも言っていられない。あの猛攻に対し僅かでも生存の確率を高めるため、できることはやるべきである。
帝王に挑んだ者たちの体験談から、かの敵が呪いや混乱の力を放つと知った私は、対応する錬金術が施された装備を探してバザー会場へ。
幸いにも所持していた破呪のリングと、売りに出されていた盾の力を合わせ、呪いについては対応策を得る。
混乱へのカウンタースペルが刻まれた防具もあるにはあったが、なかなか手が出しづらい金額だ。
……いや、正確にはその装備自体ではなく、装備のドレスアップに使うべきノーブルコートの値段が跳ね上がっていた。最も安い品でも10万以上。私が支給された頃は、この半分の値段だったのだが。
守りの盾が防いでくれると信じ、購入をあきらめる。
代わりと言っては何だが、賢者の聖水など、薬用品を買いあさる。世界樹の葉も、倉庫から引き出す。
そして……
私が攻撃に回ることは多くないだろうと思いつつも、オニキスの魔剣を購入する。
魔剣の中では5ケタの値段で買える量産品の部類だが、少なくとも、ロストアタックが装甲に弾かれるような事態だけは防げるはずだ。僅かではあるが魔力も増幅され、援護の役にも立つ。
戦術についても考える。
前回は援護のためと、杖を装備して戦いに挑んだ。結果は一撃のもとに倒される醜態だ。
盾を手放すことは自殺行為。今回は最初から剣と盾で守りを固める。
そして巻き添えで無駄なダメージを喰らえば僧侶の手が回らなくなる。可能な限り散開して戦う。
あれこれと考えるうちに時間は過ぎ、あっと言う間に約束の時刻が訪れた。
冒険者たちがグレン酒場前に集合する。
陸亀旅団団長、優しきオーガ、Z氏。今回も僧侶としてパーティを支える役を担う。
もう一人の僧侶は、Z氏の縁で知り合ったオーガの淑女、H氏。癒しの術のスペシャリストだ。
そして前回も共に戦った私と同じウェディのM氏は、やはりあの戦いから考えるところがあったのだろう。オニキスの魔剣を手に、女武闘家から女戦士に転身しての参戦だった。
いささかの緊張と共に残るメンバーを待つ。
Z氏から、我々は今日のメンバーについて多少の説明を受けていた。
それは"鳥の王"の異名を持つ英雄。
グレンの人ごみと雑踏の中、我々は英雄の到着を待ちわびる。
そして彼らは来た。
オーガの巨体にエルトナ風の涼やかな名を持つ英雄、"鳥の王"。
おどけた仕草の中に確かな実力を垣間見せる戦士、O氏。
知性溢れる的確なフォローで二人を見守るクールなバトルマスター、I氏。
そして3人の屈強なオーガに囲まれて咲く一輪の花、エルフの癒し手、W氏。
彼らとは初対面だったが、Z氏を通じてその実力は聞いたことがある。
かの悪霊の神々でさえ、彼らにかかれば赤子の手をひねるようなものだという。
仔細は省くが、どうやら彼らは苦戦する我々のため、さりげなく助太刀を買って出てくれたらしい。
英雄一行の心意気に感じ入るとともに、彼らをして助力せしめたZ氏の人望に改めて感服する。
緊張と興奮の汗の中、一行は光の河へと赴く。
我々4人にもわかっていた。
これほどの英雄、豪傑の力を借りられる機会はそうそう無い。
チャンスであると同時にまた、我々がしくじれば、英雄たちにまで傷をつける結果になるかもしれない。
もはや様子見でも偵察行でもない。
言い訳無用の、勝利への戦いへと

我々は赴く。