「ハハ……ハハハハ……!!」
哄笑が、真っ白な視界に響く。我々にできるのは、爆発の余波に耐えながらそれを聞き続けることだけだった。
光が消えていく。
我々は恐怖した。そこに現れるであろう光景に。足場を失い、敗北を決定づけられた英雄たちの姿に。
だが。
「……!?」
稲光が走り、豪炎が空を焦がす。天にそびえるゲノスの巨体と、それに挑みかかる英雄たちの姿……
「無事なのか!?」
黒煙が薄れていく。私は彼等の足元を見た。そこにはっきりと形を保つ光輪が、そしてその手前にそびえ立つ、巨大な光の壁があった。
光の奔流が垂直に噴き上がり、壁を作る。それはまるで、天に向かって逆流する巨大な光の瀑布だ。
滝のふもとには三つの小さな影。
私は驚愕の息を漏らした。
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「カンティス!」
「フェディーラ様! クリュトスさんも!」
リルリラも声を上げる。審判の三天使! 彼らが咄嗟に防壁を張り、英雄達の足場を死守したのだ。
ただの障壁ではない。命そのものを燃料としたかのような、膨大なエネルギーの壁がジア・ロックの飽和攻撃から光輪を守っていた。
それは神々しく、力強く、そして儚い。
「健気な」
念晶は嗤い、再び片手を上げた。どこからともなく、更なる爆弾岩が強襲する。
またも爆光! 次々と襲い来る熱と衝撃が天使の防壁を脅かす。防壁の一部が崩れ始めた。
カンティスは歯を食いしばり、息を荒げながらそれに耐えていた。
「怯むなよ」
彼は同胞たちに……いや己自身に檄を飛ばした。
「我らは天使。星空の守り人なり」
光の壁が輝きを増す。
静かにそびえる光の柱は、闇夜にあってなお美しく、強く輝くいていた。気高き光の化身、天使の姿そのままに。
……私は彼らが何になりたかったのか、なんとなくわかったような気がした。
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現実は非情だ。幾重にも立ちふさがる障害は、天使達に気高く崇高な存在であることを許さなかった。
過ちを犯し、無力を晒し、誰かに頼り……翻弄され、蹂躙され、右往左往し続けた。
神聖でも崇高でも超越的でもない。一個の無力な生命。それが天使達の現実だ。
それでも、彼らはそこに立っていた。
純白の護りは度重なる爆発に煽られ、汚れ傷つき、今にも破られそうだ。
カンティスが、フェディーラが、クリュトスが、顔を歪めて歯を食いしばる。悲鳴にも似た破裂音が空に響いた。
空を天使達が駆けあがっていく。彼らと共に英雄達の壁となる覚悟だろう。
「リラ」
私は隣のエルフを見た。彼女は頷き、水晶に手をかざした。
「彼らを助けるぞ」
他の冒険者たちも同じだった。輝く翼翅を闇夜に羽ばたかせ、冒険者達が天使の元へと舞い上がる。
それは星の光に導かれる、夜光蝶の群れだった。