なりきり冒険日誌~闇に眠りし王(2)
闇の溢る世界。
すでに見慣れた光景だ。
英雄一行と我々とで左右に分かれ、迷宮を駆け抜ける。
英雄たちの会話は想像以上ににぎやかで、まるで宴を繰り広げながら進んでいるかのようだった。
壁を隔ててもその様子が伝わってくる。
半分以上は異国の言葉だったらしく、通訳が無ければ意味が分からなかったが、少なくとも彼らが災厄の王を恐れるどころか、この状況を楽しんでいることだけは伝わってきた。
戦いだけでなく異国の言語も自在に操る英雄たちと、鮮やかな同時通訳を披露してくれたI氏の手腕に改めて敬服する。
道中の和やかな雰囲気……ここは闇の溢る世界である……により、硬くなりつつあった体と心がほぐれていく。これも英雄たちの目論見通りなのかどうか……。
緊張を和らげつつも、私は帝王との決戦について考えていた。
帝王の行動を阻止する「キャンセラー」と呼ばれる任を負うのは戦士のM氏とO氏、そしてハンマーの使い手、I氏の3人。
回復と蘇生を担うのはZ氏、H氏、W氏。3人の僧侶。
純粋なアタッカーとして、武闘家である"鳥の王"。
そこに魔法戦士である私が加わるわけだが……
見ての通り、魔法使いや賢者はいない。ダメージソースは物理攻撃のみとなれば、バイキルトの重要性は言うまでもないことだ。
……が、しかし、8人全員が恩恵を受けられるピオリムもおそろかにはしていられない。特に誰もが態勢を整える序盤戦、手数は一つでも増やしたいはずだ。
まずはピオリムを重視し、しかる後にアタッカーに、そしてキャンセラーにバイキルトを飛ばすべきか。
魔力の供給もまた、魔法戦士の任務だ。
それは単にMPパサーの存在だけによるものではない。
それだけなら、魔法の聖水で事足りる。採算さえ度外視すればだれでもできる役割だ。
だが、3人のキャンセラーと癒し手はパーティそのものを支える生命線である。彼らが自ら魔力を回復しようとして、手を止めてしまえば戦術の崩壊につながる。
そして一人しかいないアタッカーが手を止めては、ただでさえ悪魔的な生命力を誇る災厄の王を倒すことはできないだろう。
となれば、可能な限り私の手で回復の手間を省いてやらねばならない。
魔力供給のためにバイキルトが遅れたからといって、致命的な崩壊に繋がることはないのだから。
とどのつまり、補助の呪文と魔力の管理。
魔法戦士にとって基本中の基本。
今回の戦いは、その基本をどれだけ忠実にこなせるかという戦いになるだろう。
オニキスの魔剣が恨めしそうに赤い光を放つ。許せよ、と苦笑して魔法戦士たちの間に伝わる格言を胸に刻む。
振るわぬ剣もまた剣なり。
少なくとも今回、私の役割はむやみやたらと剣を振り回すことではない。
やがて最深部へとたどり着く。
やけに長い沈黙。おそらく、それぞれが自分の役割を確認していたのだろう。
そして頷き合う。
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いざ、決戦の舞台へ。