なりきり冒険日誌~闇に眠りし王(3)
戦いが始まる。号令のもと、時の王者たちが散開する。
闇を割く轟音。帝王の一振りが一瞬のうちに誰かを葬り去った。ここまでは前回と同じだ。
だが、決定的な違いがある。
全員が戦況を冷静に受け止めていた。動揺はない。
無論私も。
これが災厄の王との戦いなのだと、誰もが理解していた。それだけでも、あの圧倒的敗北には意味があった。
冷静にそれぞれが役割をこなし始める。
私はピオリムの呪文を。僧侶たちは天使に語り掛け、あるいはスクルトを、蘇生を。
剣も砕けよと戦士たちが奥義を尽くし、敵の力を奪う。
キャンセラーたちの働きぶりは、素人目に見ても水際立ったものだった。
ジゴスパークを、インドラの矢を、次々と封じ込める。苦し紛れに振るった剣閃が私を直撃したが、一撃だけならば辛うじて持ちこたえる。
瀕死の重傷にうろたえることなく、瀕死で済んだことに安堵する。
災厄の王との、これが戦い。
緊張感の中にも、私は確かな手ごたえを感じていた。
だが災厄の王も黙ってはいない。
多くの攻撃を封じられながら、その力の片鱗を振りかざすだけで、次々と時の王者たちが倒れていく。
立て直す僧侶たち。蘇生。強化が打ち消される。補助をもう一度。リビルド!
私の意識は災厄の王自身よりも、パーティの仲間たちに向けられていた。
帝王の相手は仲間たちに任せた。私は微力ながらそれを支える。
目まぐるしく動く戦況の中、8人全員の状況を確認するのは容易なことではない。倒され、蘇ったものには再度のバイキルトを。魔力が枯れそうな者にはパサーを。賢者の聖水も惜しまず使う。いざとなれば、世界樹の葉もだ。
天も貫けと、"鳥の王"が雄叫びを発する。激しい一喝に合わせ、攻め込むバトルマスター。一方その隙に僧侶は戦況を建て直す。
だがキャンセラーの猛攻をかいくぐって、ついに最も恐るべき魔技が放たれる。それも立て続けに。
辛うじて建て直せたのは神の気まぐれか、それとも癒し手たちの的確な判断か。
戦況が混沌とする中、私は必死で戦場を見渡した。今、倒れたのは誰だ。今、蘇ったのは誰だ。バイキルトは行き渡っているか。魔力はどうか!?
その時、帝王の赤い瞳が……その一つが私を一瞥した。
来るか……? 一瞬、身構えるが、帝王は興味なさげに次のターゲットを探し始めた。
災厄の王から見れば私など、足元をちょこまかと走る蟻にすぎないのだろう。
好きにするがいい。お前を倒せるならば、私など蟻で結構だ。
私にできることはいくつもない。誰もがそうだ。だからこそ、己の力量と役割に応じて一人一人が持てる力を尽くす。
やがて帝王の金色の体が鈍い鉛の色に染まっていく。
「あと一息!」
誰かが叫ぶ。
「ここで気を抜いちゃダメ!」
別の誰かが警告する。
「おう!」
私が答える。
英雄の一行ですら、雄叫びを上げ、互いに檄を飛ばしながら戦線を築き上げている。
私ごときが気を抜くなどありえないことだ。
パーティの間を駆け巡ること二十刻。
長い死闘の果てに、ついにその時が訪れた。
耳をつんざく轟音と共に、閃光が帝王の体を貫く。
一面の光の中、聞こえてくる柔らかな声。ロディア。
我々は
勝利を得たことを
知った。