なりきり冒険日誌~宴のあと
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朽ち果てた落陽の草原に、歓声が飛び交う。
崩壊の大地も崩れたテントも、今日だけはどんな華やかな舞台にも勝る景色だ。
打倒、災厄の王を果たした一行による宴はいつ果てるとなく続いていた。
はじめ、神妙な顔でお互いの健闘をたたえ合っていた仲間たちも、やがて羽目を外し始め、飲めや歌えやの騒ぎが始まる。
驚くべきことに、パーティ外からわざわざ祝辞を述べて去っていく旅人たちの姿さえあった。
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日が落ち、夜になっても宴は続く。
乱入して舞いを披露する者も現れた。
騒々しくも幸せな宴の中、私はひどく非現実的な場所に自分がいるように思えてきた。
ヴェリナードに仕え、他の冒険者たちと関わることなく任務をこなしてきた私が、多くの仲間と共にここに座っている。それはあの帝王を打ち倒したこと以上に、奇跡的なことではないか……。
エルトナの地酒が喉を潤し、心地よい熱が五臓六腑にしみわたる。
草原を走る風も、この熱を冷ましてはくれないようだ。
あるものは歌い、あるものは踊り……
そして、夜が明けた。
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ヴェリナードの女王陛下に報告を済ませた私は、再び一人、各地を観察する旅に出る前に、世告げの姫、ロディアの元を訪れた。
私が未だ一人旅を続けていることに彼女は呆れた顔を見せたが、この性分は治りそうにない。
ただし、例外を好意的に受け入れる心構えはできた。それを楽しむ気持ちも持てた。彼女には、これで納得してもらうとしよう。
ロディアによれば、災厄の王との戦いは、あれで終わったわけではないらしい。
まだ、真の戦いが残っている。
そしてさらに、一度は消え去った帝王は、未だその魔力を絶やすことなく、玉座には帝王の幻影が鎮座し続けているという。
数多くの王者たちが、今も帝王の打倒を目指し、挑戦を繰り広げている。
できれば彼らに力を貸してやってほしい、と彼女は言うが……言われるまでもなかった。
今回の闘いでは、我々が英雄の力を借りて戦った。
自分なりにベストを尽くしたつもりだが、至らない点もいくつもあっただろう。
これからは、私が王者たちを助ける番……などとは、私の実力では口が裂けても言えないが、せめて力になりたいと思う。
それは私自身の力が本当の意味で帝王に届いたのかどうかを、確かめるための挑戦でもある。
そして災厄の王との戦いで印象的だったキャンセラーの活躍。
元より魔法戦士としての力は伸び悩みの時期を迎え、私自身、戦術の幅を広げるべき時がきていた。
無論、誇り高き魔法戦士の職を辞するつもりは無い。
魔法戦士と戦士の兼業。これが私の目指す新たなスタイルである。
さて……。
一通りの話が終わると、ロディアは再びその細い指を宙に舞わせ、輝くヴィジョンを描き始めた。
二度目のことだったため、何が始まるのか、私にもわかっていた。何も言わずに瞳を閉じる。
音と光、いくつもの事象のかけらが無の空間を踊る。それが重なり合い、私の頭に飛び込んでくる。
ロディアの世告げ。
改良されたドルボードを乗り回す旅人たち。
美しき占い師。夏の祭典。
徒党を組み、襲い掛かる十二魔将。
各国の王たちの姿もあった。
我がヴェリナードのオーディス王子と、セーリア様……。このお二人の関係は我が国にとって微妙な問題をはらんでいる。
王子の妻となるものは、すなわち女王となるもの。それが我々にとっての常識だ。が、それを覆そうというのが王子の望みならば……。
この恋は甘い物語では終わりそうにない。
最後の男王、今は島の名として知られるラーディス王について、調べておくべきだろうか……?
そして……
不意に、見覚えのある顔が脳裏に浮かび上がってきた。
そのうちの一つは、瞳を開けば目の前にある。
美しい、姫たちの素顔。
「……申し訳ありません、手違いでした」
手を止め、恥じ入るようにロディアは言った。
未来の絵図に混ざったそのヴィジョンは、おそらく過去。
姫たちがまだ、ただの娘だったころの記憶に違いない。
これまで我々を導いてきた世告げの姫たち。その素顔を私は知らない。
もし、これが手違いでないなら。
未来において、私が彼女たちの過去に触れるという世告げだったならば。
………。
いや、無粋か。
その時がくればわかることだ。
私は例によって土産の女王様サブレを渡す。贈答品にはこれ。今回は他の姫の分も持ってきた。後で分けてやってほしいと頼んでおく。
おそらく早く食べたくてうずうずしているであろう世告げの姫に別れを告げ、私は崖っぷちの村を後にした。
こうして……
一つの嵐が過ぎ去り、新たな風が吹く。
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そしてまた、いつもの日々が始まる。