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薪の弾ける音がぱちぱちと響く。鍋の中から酸味のきいたスープの匂いが漂ってきた。もう夜も遅い。探索は明日からになるだろう。
今日のところは運搬してきた物資の荷下ろしだ。食料、燃料、衣服に水。ゼニアス常駐の研究員たちにも、この補給は好評だった。こちらでも水源や釣り場は確保できたそうだが、やはり故郷のものは安心感が違う。
「おっと」
物資を運ぶ中で、積み上げたサバ缶が荷台からこぼれ落ちた。拾いながら私はウームと小さく唸った。
ヒューザの好物だから持ってきてやったのだが……。同郷の友人を思い浮かべ、私はため息をつく。相変わらず付き合いが悪い。
「こんな大量に食べないでしょ」
リルリラは呆れ顔である。
「いや、あいつは出された分だけ食べる奴だぞ」
子供のころからそうだった。今も大して変わってない。
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ちなみに報告書によると。ゼニアスにサバは生息していないらしい。生態調査も、探索隊の任務の一つだ。
「エステラさんやシリルさんとも、会いたかったなぁ……」
リルリラが体を伸ばしながら呟く。
シリルとは魔王アスバルがウェディに扮してウェナを訪れた際、偽名として使っていた名前だ。竜族のエステラ嬢はナドラガンド探索以来の友人で、神に仕える者同士、リルリラとは仲が良かった。いずれも"燈火の調査隊"のメンバーである。
「あらためて……凄い顔ぶれだな……」
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「もう帰っちゃったけどニャ」
ニャルベルトは白けたような顔で喉を鳴らした。確かに肩透かし気味ではある、が……
「まあ、我々は我々でやってみるさ。ひょっとしたら未発見の街や国……第一陣以上の発見があるかもしれんぞ」
そう、"創失"の脅威が消えたとはいえ……いや、消えたからこそ、ゼニアス探索は始まったばかり。燈火の調査隊は道を切り開いたが、道を発展させるのは、そこを歩く者達なのだ。
「早々にとんぼ返りしたヒューザの奴を、悔しがらせてやる!」
「はいはい」
リルリラが崩れたサバ缶を台に戻しながら笑った。猫も笑う。私も同じだ。異界の星明かりが鈍く輝く。
見知らぬ空の下、見慣れた仲間達と共に。
ゼニアスでの我々の旅は、こうして始まったのである。