操縦桿に指示を送る。地上へと近づくにつれ、ダウンウォッシュの気流が枯草を巻き上げる。ホバリングからゆっくりと着地。アイドリングを経て動作停止。そしてパワーオフ。ドルバイクの振動が収まり、我々は苔むした廃墟へと降り立った。
地形調査に続き、遺跡探索が始まる。
「アストルティアでもよくやる奴だニャー」
ニャルベルトの言うとおり、探索者にはお馴染みの作業である。
倒壊した建物のほとんどは瓦礫の群れと化していたが、いくつかは原形をとどめているものがあった。我々はその門をくぐり、扉を開き、レリーフの一つ一つ、家具の一つ一つを記録した。特徴的な鉱石で作られた台座や、シーツとして使われていたのであろう、輝くような生地の布。いくつかは、今でも使えそうだった。
中でも目を引いたのは、黒い箱に厳重に保管されていたこの紋章。台座には"邪教司祭の紋章"とあった。

邪教というやつは疫病に似ている。気を抜けば、どこにでもはびこるらしい。
私は先日読みふけった調査隊からの報告書を思い出した。現在のゼニアスには神に祈りをささげる習慣は無いという。
そんなゼニアスの、比較的形をとどめた遺跡に、邪教の活動跡が残っているのは何やら示唆的だった。
人々が神の名を忘れた末法の世、終末論を唱え言葉巧みに人々を扇動する邪教の教祖……そんな時代もあったのかもしれない。
だとすると、突如目を見開き我々の前に立ちはだかった黒鉄の巨人像などは、さしずめ邪教の守護者といったところだろうか。

彼は怒りに満ちた青い目で我々を睨みつけ、黒光りする鉄の拳を勢いよく振り下ろした。
我々が散開すると、ワンテンポ遅れて鉄塊が叩きつけられる。石畳がつぶてとなって飛び散り、砂煙が舞う。
戦いは激しいものだった。我々は何度も冷や汗を流したが、私が理力を叩きつけて巨人を怯ませたところにニャルベルトが火球をまとめて叩き込み、なんとかケリがついた。地響きと共に巨人は倒れ伏し、遺跡の壁が崩れ落ちる。現場保存としては大幅減点だが、背に腹は代えられない。研究員たちは怒るかもしれないが、大目に見てもらおう……。
「割と物騒なトコだニャ、ここ」
ニャルベルトの言うとおり、この地を徘徊する魔物はどれも手ごわい。伊達に滅びの時代を乗り越えてはいない、ということだろうか。
そんな殺伐とした荒野にあって、食料調達と水質調査を兼ねた釣りは、よい息抜きである。

このあたりで獲れる魚は、アロワナやテトラ種のような熱帯魚に近い性質を持った淡水魚がメインらしい。食用としてはあまり価値がないが、中には食べられるものもいる。
もっとも、ジア結晶の突き刺さった池で獲れた魚を食べる気には、私にはなれないが。
「あ、ウーパールーパー釣れた!」
「向こうにいる彼の親戚かもしれんぞ」
野性のウパソルジャーがこちらをチラリと眺め、無関心に通り過ぎていった。

このようにして、レストリア平野の再調査はそりなりに楽しく、それなりに危険で、それなりに順調に進んでいった。
そして調査に一区切りがついたある日。
我々に新たな任務が言い渡されたのである。