「リラ、どうした!」
私は周囲に呼びかけた。答えはない。岩山に響く私自身の声と、冷たい潮騒が返ってくるのみだ。
ニャルベルトが駆けだした。
「追っかけるニャー!」
謎のオベリスクへと向かう。私も同じだ。コンパスの差で数歩で追い抜く。走りながら合図の信号弾を空に飛ばす。ドワーフ達は気づくはずだ。我々は飛び込むしかない。蛮勇尊ぶべし!
猫と私はリルリラと同じように石碑の正面へと躍り出た。古代文字はまだうっすらと光を放っている。先ほどと同じように、それが大きく広がっていく。
我々の肉体は光に包まれ、大きく振動した。ルーラストーンの輝きにも似たそれが、我々をここではないどこかに導いていくのが分かった。
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視界が揺れる。意識もだ。真っ白な闇が帳のように頭を覆う。足元には、ふわりと浮くような柔らかい感触があった。
そして光が収まるより早く、私の身体を突き動かしたのは甲高い悲鳴だった。
「ミラージュ!」
「リラ!」
その声の方向に私は走った。一歩遅れて、白い霧が晴れていく。雲に包まれたようなだだっ広い空間に影が二つ。一つはリルリラ。もう一つは……
「モンスターだと!?」
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四つ足の巨体。獅子のようなたてがみと、オオカミのしなやかな四肢を併せ持つ魔獣がエルフを追い回していた。エルフはスティックを振り回しながら後退するが、牽制にすらなっていない。
「ちぃっ!」
私は剣を抜き、走る。ここは捨て身にならねばならない。
獰猛な唸り声をあげ、前足を振り上げた魔狼の前に、私は躍り出た。魔狼の爪が襲い掛かる。防御は……間に合わない!
鮮血が飛び散り、私の肩から胸にかけて数条の爪痕が刻まれた。軽傷とは言い難い。
が、歯を食いしばる! ニャルベルトが駆け寄り、リルリラが息を飲んだ。
「ミラージュ……!」
「フォーメーションだ!」
私は一喝する。猫とエルフはそこで表情を変えた。
次なる一撃が私を襲う。×の字を描くように、先ほどとは逆方向からの爪が私を切り裂く。備えていたとはいえ、やはり軽くはない。私の顔が苦悶の表情に歪んだ。
が、退かぬ。
その隙に、ニャルベルトはリルリラを連れて後退した。戦いを知らぬ者が見れば、私がが自分を犠牲にしてリルリラを逃がそうとしているように見えただろう。
だが心得のあるものならばこう分析する。前衛が敵を抑え、後衛が距離をとる。教科書通りの布陣だと。
猫もエルフも、既に戦闘者の顔つきであった。
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リルリラは祈るような仕草と共に呪文を唱え、ほのかな癒しの光を掲げた。私の傷が治癒されていく。ニャルベルトが杖を突きあげると、上空から火球が舞い降りる。
魔狼は機敏なステップで炎を回避する。が、それが私に体勢を立て直す時間を与える。盾を構え、剣に理力を宿す。フォースの光が剣を緩やかに包み、鋭い剣閃となって魔狼を襲う。
そこからは、一進一退の攻防となった。