なりきり冒険日誌~新しい世界
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ともかく、腑に落ちないのはフォースブレードのことである。
バザーに並んだ大振りな両手剣に落胆と怒りを禁じえない魔法戦士は私だけではあるまい。
フォースと言えば我々魔法戦士の象徴。そのフォースの名を冠しておきながら魔法戦士の使えない両手剣とはどういう料簡なのか。
一応は攻撃に雷の力が付加されるとのことで、フォースの力で鍛えたという売り文句なのだろうが、素人は騙せても魔法戦士は騙せない。フォースにおいて風と雷は表裏一体。不可分なものだ。しかるに、雷の力しか持たないこの剣がフォースと無関係であることは火を見るよりも明らかであった。
魔法戦士団を代表しての私の抗議はしかし、受け入れてもらえなかった。せめてこちらを向けと言いたい。まったく、フォースを何だと思っているのか。
……フォースといえば、団長や副団長から昔、フォースを他人にかけられる方法を模索していると聞いたことがある。伝説に聞く古代の魔法戦士はパーティすべての仲間に一気にフォースの力を与え、しかもその力は現代の我々をはるかに上回るものだったという。
いつか、我々もその域に達することができるだろうか。フォースの名誉回復のためにも、その日を信じるしかなさそうだ。
さて、フォースブレードのことはさておき……
緩やかではあるが、確実に変化する世界に、私はまたも取り残されがちである。こんな時に限って……いや、こんな時だからこそか。デスクワークが増え、旅をする時間も限られる。
最初は賑わっていたであろう聖使者の試練も、私が受けるころには人もまばらでターゲットの取り合いなど起こりえない状況だった。
バザーをもう一度確認する。世界に変化が起きれば、物価も変動する。
折悪しく、私の手元に一枚のコインがある。数週間前ならば15万ほどで売れたはずだが、例の占い師のうわさが流れて以来、暴落の一途を辿っている。果たしてこれが一時的なものなのかどうか。彼女が都市伝説に過ぎないのであれば、いずれ価格は戻るはずだが……。
どの道、売るタイミングを逃したのなら、しばらくは様子を見るとしよう。
そんな確認作業を行っていたところで、メンメからの連絡を受け、ガタラに向かう。なんでもドルボードにはまだ改良の余地があるとのこと。
ならばさっそく……
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「室内用ドルボードを!」
「無理ですってば」
やはり無理だった。
改良法を求めて水晶宮へ。そこで私は懐かしい名前と再会した。
ガテリア皇国とリウ老師。古代文明と言えば、やはりこの話題なのか。
ダオ少年はどうしているだろう。いずれメンメと対面させてみたいものだ。その時には研究員繋がりでドゥラ院長や、彼のコネでハネツキ博士も……。文明の果ての崩壊を知った皇子と、失われた文明を追う研究員たちとの会話は、本国へ報告に値する内容となるに違いない。
改良法が書かれた書物をメンメに渡し、報告を待つ。
私にとっての新しい時代は、このようにゆっくりと始まった。