なりきり冒険日誌~生誕祭
葉の月2日。ヴェリナード王宮の一室にて、私は机と向き合っていた。太陽は上機嫌だったが、それは窓の外の光景だ。風に揺れる木々の囁きも波の戯れもここまでは届かない。届くのはひらひらと紙をめくる音。羽ペンは駆け足で羊皮紙の上を行き来する。たまりにたまったデスクワークの波は、本来国外任務を担当しているはずの私にも平等に押し寄せてきた。旅の空が懐かしく思えるほどの缶詰地獄だ。
そんな我々に久しぶりの休暇をもたらしてくれたのが、アストルティア生誕祭である。
言い伝えによれば、この日は世界を生み出された神々が、我々5種族と人間を初めてアストルティアに降り立たせた日であるという。祭りの熱と太陽の熱とで、町は大いに湧き上がっていた。
私の手元に一通の手紙がある。中身は生誕祭の夜に花火大会を行うので、ぜひ来られたし、というものだ。
主催者はかつて災厄の王との闘いで手を借してくれたW氏。スタッフには陸亀旅団のZ氏や共に戦ったH氏、O氏、I氏に鳥の王も名を連ねている。となれば、私も無関心ではいられない。デスクワークの憂さ晴らしも兼ねて、ラーディス王島へと赴いた。
ラーディス王島はヴェリナードの歴史において最後の男王となったラーディス王の名を冠した島である。ここに眠る多くの遺跡が、その歴史を物語っている。
今では集落の一つもなく、過去を伝えるだけの島となったが、やはり気になるのはロディアの世告げだ。次代の男王を目指すオーディス王子が何らかの動きを見せるのであれば、おそらくこの島にも新たな歴史が刻まれることになるのではないか……。
もっとも、それはまだ先のことである。
それに、この花火大会とて、世界から見れば些細なことかもしれないが、この島と、そこに集まった旅人たちの中に新たな歴史を刻むことは確かだ。
集まった顔ぶれは予想以上に多く、多岐にわたっていた。
懐かしい顔、初めて見る顔、そして酒場でしか見かけたことのない人々。私にとっても嬉しい出会いだ。
私にとっては二度目の撃破となった災厄の王との戦いで共に戦った、チームあすかていのO氏とも再会した。再会を喜ぶ我々の隣で、魔法の玉を打ち上げる音が響いた。
天に上った光玉が弾けると、花火大会の始まりだ。
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色とりどりの光の環が夜空を染め上げていく。それは美しいものだ。
多くを語れば陳腐になるだろう。ただ、光に彩られた空のキャンバスと、そこに絵を描いた人々の姿を記しておくにとどめておこう。
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さて……。
休暇の一日目はこれで終わり、次の一日はゆっくりと休むというのが私の予定だった。
が、安らかな休日はそれは思わぬ介入により妨げられた。
そして私は、苦悩に満ちた冒険の一日を味わうことになるのである。