なりきり冒険日誌~仮面のバトルマスター(1)
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龍がその身を揺らすように、水の流れは大地をうねり、緑の大地をなめらかに染め上げていた。
川は山を下り、海へそそぐ。橋上から見下ろすオーグリードの情景は素朴だが雄大だ。無骨な山肌と清らに流れる水、そして風が運んでくる爽やかな夏の緑の香り。
久しく触れていなかったアストルティアらしい空気に包まれ、私の背びれはピンと張りを取り戻す。旅の空でこんなことを言うのもおかしいのだが、ようやく自分の居場所に戻ってきた気分だ。
だが、あまり安らいでもいられない。任務中である。隣を歩く壮年の剣士がコホンと咳ばらいをした。彼が今回の任務の同行者であり、また、ある意味では私の上司でもある。
デスクワークを離れ、一般任務に就いた私はガートランドから西、オルセコ高地を目指していた。目的は違法な魔物商人に連なる犯罪者たちの捕縛。ここに至るまで、いくつかの戦いがあった。
魔物たちは我々五種族と人間にとって外敵であると同時に、このアストルティアを構成する生態系の一部でもある。全てを根絶やしにすべきものでもなく、また、上手く扱えば我々に恩恵を与えてくれる存在でもある。
狩りの対象として彼らの皮や骨が我々の住居や家具、衣服に使われることは珍しくないし、おとなしい魔物を家畜として使役する場合もある。闘技場では飼いならした魔物を冒険者と戦わせる見世物も催されるという。彼らは危険な隣人だが、同時に共存すべき友人でもあるのだ。
中でも特に魔物を操る技巧に優れた者たちを魔物使いと呼ぶ。いずれは冒険者にもその技術を開放するだろうと囁かれている彼らが、まっとうなやり方でその力を振るうのであれば、何の問題もない。
が、まっとうでないやり方でその力を振るったとき、彼らは魔物そのものよりも恐ろしい敵となる。
かつて、とある魔物商人と、彼にそそのかされた愚かな男により、ヴェリナードは一度危機を迎えた。いや、ヴェリナードだけでなく、他国も巻き込んだ大きな陰謀が展開されていたのである。
それ以来、魔物商人は魔法戦士団にとって天敵であり、怨敵である。
事件はいったん解決したが、あれが最後の魔物商人とは思えない。恐らくは地下に潜伏しているであろう彼の商売仲間を根絶やしにするため……魔物はともかく、魔物商人は根絶やしにして一向に構わない……我々も日々調査を続けていたのである。
つい先日、その調査が実を結び、とある町にて、組織の活動をとらえたとの報告が入った。町の名はラッカラン。大富豪ゴーレック氏が一代にして築き上げた娯楽都市である。
娯楽には金が。金にはさらなる金が群がり、やがて膨れ上がった利益は、その内側に毒をはらむようになる。毒はさらなる毒を呼び、犯罪と暴力が闇にうごめく。それが一般論だ。
が、ゴーレック氏の手腕はその負の連鎖を許さず、少なくとも表面的には平和な娯楽都市を築き上げていた。
魔物商人たちはそれがお気に召さないらしい。
元より魔物を扱う施設であるコロシアムは、彼らにとってうってつけの潜伏先である。闘技場で行われる催しごとに陰謀の匂いを嗅ぎつけた魔法戦士団は、私を現地に派遣した。
今、私の隣にいる剣士、ジェイコフと出会ったのは、その直後のことだった。