なりきり冒険日誌~ゴシックと私
王立魔法戦士団規律の冒頭に、次のような文言が躍っている。
【ひとつ、魔法戦士たるもの、いかなる時も美しくあれ】
至言である。
他国に赴く魔法戦士は、いわばヴェリナードの顔。女王陛下のご尊顔に泥を塗らぬためにも、身なりを整え、礼節とをわきまえた言動を心がけねばならない。
無論、見た目だけ美しくて中身が伴わないのでは道化である。己を着飾る行為は、衣装に見合った実力を身に着けてみせるという誓いでもある。己の理想を演じ、また演じることで理想に近づく。伝説の創生神U・G・ホーリィは言った。人生とは役割を演じるゲームである、と。けだし名言である。
そんな魔法戦士団の一員である私も当然、ドレスアップには人並み以上の興味を持っていた。一時期はメギストリスに通い詰めたものだ。
そして今、私は一着の衣装を取り出し、思案に暮れていた。
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ゴシックコート(下)
このランクの装備品にしては破格の4万Gで叩き売りされていたのをドレスアップ用に購入した。1ヶ月ほど前のことだ。普通、コーディネイトを考えてから購入するものだが、この値段を前に、考えている暇はなかった。タッチの差で、とはバザー店員の口癖だ。
だが、後先を考えなかったツケは当然のように廻ってくる。この装備、形状は良いのだが予想以上の難物だった。
まず、レザー製品特有の光沢。
ツヤのある質感は布製品と合わせるのが難しく、この時点でいくつかのコーディネイト案が空に消えた。
続いてコート部分と脚部が同カラーでまとめられている点。
これにより、メインカラーだけで全体を支配してしまう上に、ブーツとの組み合わせも難しくなる。これでさらにいくつかのコーディネイト案が消えた。
以来、いつか使おうと思いつつ押し入れの肥やしにしていたのだが……
今回、これを引っ張り出してきたのは、バトルマスターとしての修業が絡んでいる。
必殺技と証、そしてバトルマスターの奥義と呼ばれる天下無双の連撃を習得し、これでバトルマスターとしてどこに出ても恥ずかしくない……などとはさすがにいえないが、一応の格好はついたことになる。
だがバトルマスターの装備は、どういうわけかそのほとんどが魔法戦士と共用不可能となっている。
私もそれほど裕福ではないから、とりあえず最低限の装備を整えるに留めておいたが、問題はその後だ。
魔法戦士たる者、いかなる時も美しくあれ。
バトルマスターとして戦う時であろうと、心が魔法戦士である限り、それは同じである。
コーディネイトに使える装備は無いものかと、屋根裏を探し回っていた時に、件のコートを思い出したというわけでである。
私は一冊の書物を片手に、ゴシックコートとにらみ合った。
片手で開くには少々重いこの本の名は、ファッション&ハウジングおしゃれカタログ。メギストリスの仕立て屋ポポルが発行した、コーディネイターのバイブルである。
アストルティアに存在する膨大な装備全ての外見と、カラーリング可能箇所が記された、なかなかの代物だ。
欲を言えば下半身装備が上着の裾を隠すかどうか、腕装備が上着の上に来るか下に来るか、といった情報まで開示してほしかったが……ま、贅沢を言い出したらきりがない。
これを見る限り……
カラーリングの難しいゴシックコートはデフォルトのまま残し、他を合わせた方が上手くいきそうだ。
そして上着は布でなく、レザーの光沢に調和する質感を持つ装備……むしろ金属製品に目を向けてみるべきだろう。
そこで私が白羽の矢を立てたのは、はがねの鎧。メインカラーを変更できるうえ、ラインの模様が良い装飾要素となり、金属と布の中間のような質感を表現できる。
これをコアブラックで染め、ラインの色もゴシックコートに合わせ……
花代もばかにならないため、腕と脚は安く仕上げる。脚は玄武。腕は青銅。いずれも黒をベースに赤の装飾を持つ装備だ。デフォルトカラーのまま採用。
できれば帽子も合わせたいが、今のところ良い帽子が見つからない。しばらくは髪に隠れるバンドを使うことにする。
こうして、バトルマスター用コーディネイトがひとまず完成した。
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結局黒ずくめになってしまった。
あえて気取った言い方をするなら黒騎士風。より砕けた表現を使うならマック・ロクロス系ファッションか。
上腕部分が少々寂しいが……ま、改善案は追い追い考えていくとしよう。それもまた旅の楽しみになるだろう。
バザックスとの戦いで新装備を試してみる。
テンションブーストからのギガスラッシュは爽快そのものだ。
が、一つ問題がある。
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もう少しスマートに戦えないだろうか?
理想と現実、拘りと妥協。
コーディネイトをめぐる悩みは、永遠に尽きない。