チムメンのマルちゃんが、ジューンブライトイベントに出てくるシラナミとミツノをイメージしたハウジングをしてて。それに合作する形でのショートショートです。ガタラ6丁目2番地 採掘現場をどうぞよろしく!
私の両親は言いました。良い人と結ばれなさいと。私の友達は言いました。良い人と出逢いたいと。
私にはよくわかりません。誰が良い人で、誰がそうでないのか。でも、そんな私にもひとつだけわかることがあります。私は、シラナミ様に救われたということです。ただそれだけで、私には十分すぎる理由なのです。
私が衝動のままシラナミ様にお仕えするようになってから、しばらくの時が経ちました。お側に居させて頂くうちに、何も知らなかった彼のことを私も少しはわかるようになって来て。
どうして私の実家を大金を叩いてまで助けてくれたのだろうと、最初は疑問に感じていたものです。シラナミ様は「ここの団子が好きだから」とおっしゃっていましたが、まさか本当にそれだけの理由だったなんて思いもしませんでした。世の中にはこのような方もいるのだと、ただただ驚くばかりです。それと同時に、己の欲望を満たすためならば何でもやり通せる彼のひたむきさには、改めて尊敬の念を覚えます。
もちろん、シラナミ様を快く思わない人が多くいらっしゃることはわかっています。どこまでも我を通す限り、他人とぶつかってしまうのは避けられないこと。
こんな人間の側には居ない方がいいよと、お節介を焼かれた経験も数えきれないほどです。その度に、私も彼のように自分がやりたいと決めたことは曲げたくないと強く決意してきました。どんな理由であれ自分自身が真に救われたことを、私は蔑ろにしたくはありません。そうでなければ、彼の側にいる資格はないと思うからです。
今でも時折、夢に見ます。いつもの我が家、安心できる両親の顔ぶれや日常。絶えず続くと思っていた平穏が突如として崩れ去ったあの恐怖は、一生忘れられません。
幼い私は、誰かが我が家の扉を叩く音が好きでした。木製のドアがコンコンと小気味良い音を立てる中に、なんとなく相手の期待やワクワクが詰まっているような気がして、それがどうしようもなく好きでした。両親の料理を食べて喜んでくれる人を見ると、私も嬉しく感じたものです。
そんな好きだったはずの音が、ツバクロ組がやってくるようになってから恐怖の対象に変わってしまいました。扉を叩く音がする度に身が竦み、呼吸が荒くなり、頭の中が真っ白になって。私と同じように怯える両親の姿を見ると、それに抗えないことがはっきりとわかってしまって。尚更に、恐怖心を煽っていきました。
そんな絶望の日々が続き、私も両親も憔悴し切って。ああ、私の愛した日常はもう戻って来ないのだなと、諦めてそう悟った時。彼はやって来ました。結果として、我が家はツバクロ組から守られて、今でも小さな料理屋を営んでいます。
自分の居場所が、ちゃんとこの世に存在する。それがこんなにも心を満たして潤してくれるなんて、失いそうになるまで知りませんでした。そう自覚した後は、日に日にシラナミ様への感謝や想いが募って行くばかりで。気が付いたら、家を飛び出して彼の元へやって来てしまいました。彼に拒絶されたらどうしようかと不安でいっぱいでしたが、無事にお仕えする許可を頂き今に至ります。今では、ここも私の居場所だなんて。ちょっと柄にもないことを思ってしまっています。
確かに、シラナミ様は良い人間ではないのかもしれません。彼の傍若無人な振る舞いや言動によって、傷つく人々をたくさん目にして来ました。それでも、彼がそういう人間だったからこそ私は救われたわけですから。私は、シラナミ様は今のままで良いと思っています。
他の方の目には、彼が不遜で傲慢な成り上がりの馬鹿者に映っていたとしても。私の目には、彼が彼である限りいつまでも白馬の王子様であり続けるのでしょう。私は、それを恥ずべきことだとは思いません。
別に悪が栄えたっていいではありませんか。悪人が報われたっていいではありませんか。たとえこの先が地獄であろうと、私は最期までお供させて頂きたく存じ上げます。彼の側に居続けることが、何より私に取っての幸福であり、望みなのです。