9 黒翳のアーシュラ⑤
「さァて……後はこのデカブツをどうするか、だなァ。気分はどうだい、ジンオウさんよォ?」
裂傷や打撲の痕こそ痛々しいが、鍛え抜かれた筋肉の鎧もあってか致命には至っていない。しかし文字通り雷に撃たれたかのような衝撃が全身を貫いており、意識も朦朧としているジンオウは全く起き上がることができずにいた。
「上には上がいる、今のお前を見てそれを思い知らされたよ。そのことに関してだけは礼を言っておくぜ」
相変わらず何を考えているのか分からないシキョウと、それでも強者には違いなかったかつての特攻隊長に僅かな謝意を示すゼーエン。
そこへふらりと現れたのは――青白い顔でゆっくりと歩みを進める、メギウス本人であった。
「マスター、随分とお疲れのようですが……」
「知らねェ内に何かあったんですかい、ボス?」
普段は綺麗に整えられている横分けの髪に乱れが見られ、疲弊しきった様子の体は軋むかのような重い挙動を見せている。先程まで彼がディザイアを通して遠隔での対応に終始していたのは、恐らくこの消耗のためであろう。
そして無言のまま、メギウスがジンオウを見下ろす。その表情は冷徹そのものであり、ディザイアを通していた時と全く変わらない機械的なものであった。その気配に気づいたジンオウが、朦朧としながらも虚ろな目をメギウスへと向ける。
「あ、あぁ……メ、メギ……」
倒れたまま身動き一つ取れない哀れなその姿に、かつての傍若無人な面影は微塵もない。傷だらけの中、息も絶え絶えに主の名を呼ぶジンオウに対し――メギウスは、スッと手を差し伸べた。
「す……すまんな、メギウス……」
震える手でそれを掴むジンオウに、無表情だったメギウスが酷薄な笑みを浮かべ――そして、彼が遂に口を開く。
「――魔装展開」
瞬間、メギウスの体表を幾何学的な緑のラインが走り――随所に破損が見られるブラックメタルのバトルスーツに固められたその姿は、灰色の港町に現れた黒騎士そのものであった。装甲に覆われた手に力が込められ、ジンオウの手がミシリと音を立てる。
「がっ……メ、メギウス、これは……!?」
「私は何度も猶予を与えてきました。そして最後のチャンスを生かせなかった貴方は、もはや必要ありません――魔装顕現」
空いた手にフォトンサーベルが顕現され、逆手に持ち替えられたその先端がジンオウの胸へと向けられる。もはや言葉にならない呻き声は、魔装越しのメギウスの耳に一切届いていなかった。
「あの憎むべきウングラをみすみす逃した罪は重い……!」
胸を貫かれたジンオウが最期に見たものは、彼が戦団に属して以来、初めて目にしたメギウスの感情的な姿であった。すかさずシキョウが影から呼び出した無数の黒い手が、もはや物言わぬ剣豪を闇へと引きずり込み――炎の剣の破片だけが、ジンオウが今までこの場に存在していた証として遺されていた。
〜10 執事と魔女と魔法戦士と①へ続く〜