10 執事と魔女と魔法戦士と③
「無論、表立ってはできません。情報収集も含めてオフを利用してといったところですね……では、後程」
レゼールと別れ、ヴェリナード城を後にする二人。
酒場でティータイムとばかりにエリミリアがクリームソーダで一息つき、それを見届けたセバスは紅茶の香りをゆっくりと楽しむのであった。
「……防衛軍って、毎日募集かけてるのね〜」
ヴェリナードの酒場では、各国を襲う兵団――魔物商人の商品からその地を守るため〈アストルティア防衛軍〉の募集が常に行われている。その一角で記録員の説明を受けている何名かの冒険者を眺めるセバスの目には、人々のために侵略者から村や町を守り抜く正規の防衛軍が眩しく見えていた。
人々が逃げ惑い、泣き叫ぶ中、魔物商人の手勢相手に容赦ない殺戮を繰り広げるキラーマシン隊。その一角を指揮し、全身を返り血で染めたアズール・プルミエとしての自分――通常の防衛戦とは何もかもが違う、敵を蹂躙し尽くす、血なまぐさい戦場の記憶しかない。
「……もぉ〜、そんなに私と居るの退屈ぅ〜?」
唇を尖らせるエリミリアに鼻をつつかれ、はっと我に返るセバス。不覚にも心ここにあらずな姿を見せてしまった執事が、深々と頭を下げる。
「大変失礼いたしました、申し訳ありません」
大げさにふくれて見せていたエリミリアだが、ころっと笑顔になって、
「なーんちゃって! ウフフ、昔のことでも考えてた?」
「エリミリアさんのような素敵な方を前にして、お恥ずかしい限りです」
「アハッ、セバスちゃんでもそういう台詞が言えるのね♪」
傍目から見ると見目麗しい男女のデートでしかなく、その後もしばし談笑する二人。執事としての平常心を意識しつつもどこか張り詰めた部分があると自覚していたセバスだが、それも少しほぐれたように思えてきた。
「――でさ、昨日の朝もクロムちゃん言ってたよ〜?『セバスはみんなの正義の味方だから、シュッと片付けてシュッと帰ってくるよ!』って。セバスちゃんてば、いつもシュッとしてるのね〜」
「クロム様らしいお言葉です。あの方の大らかさ、いつも笑わせてくれようとするお心遣いには、私も何度救われたか分かりません」
花の民プクリポが人々を笑わせるのは、辛くて悲しい人たちも皆笑顔になって欲しいから、寄り添いの気持ちがそこにあるから――セバスはクロムと出会って以来、そう考えるようになっていた。
その話に優しい微笑みで頷くエリミリアが、不意にキュッと眉根を寄せてセバスに顔を近づける。
「でも、流石に〈グレ地下〉でそのシュッとしたスタイルは浮くのよねぇ〜……夜までまだ時間あるし、ついでにちょっと付き合ってくれる?」
メギストリス城下町――再びプクランド大陸へ戻って来たセバスはエリミリアに連れられ、ファッショナブルな人々であふれている通りへと足を運んでいた。勝手知ったる様子で歩くエリミリアから、セバスはこう言われたものである。
「この〈おしゃれストリート〉で、グレ地下にイイ意味で溶け込めるようなファッションを見繕ってみましょっか」
かつてのセバスであれば執事服で臨むことも辞さなかったであろうが、今回は言わば密会に近い状況であるため、あまり目立つのも都合が悪い。魔法戦士団のレゼールからしてみれば尚更だ。
「グレン地下闘技場と言えば、やはりなかなかにアウトサイダーなイメージがありますが……」
「まーまー、そこは私に任せてくださいな」
セバスがエリミリアに連れて来られたのはストリートの片隅、ドレッドヘアーにサングラスといった怪しげなプクリポの男性の前であった。
「へへっ、よく来たな……今日も何かご入用で?」
「闇商人である君のルートなら、アウトローでバイオレントな服でもあるかなと思ってね〜」
「おっと、こいつは人聞きが悪い……今の俺は一介の取り寄せ商だぜ。さ、お前さんが欲しい物を売ってやるよ」
セバスがただただ見守る中、エリミリアが取り寄せ商が並べる品を真剣に吟味する。どのようなファッションを見繕ってくれるのか、期待半分、不安半分……無論、それを一切表情に出すことはない。
「んっん〜……よし、決めた。包んでくださる?」
エリミリアが選んだ衣装一式をセバスに手渡す。
「重ね重ね、ありがとうございます。ここまでしていただき、どうお返しすればよいものか……」
既に隠れ家で十分過ぎるほど尽くしてはいるが、自身ではそれを全く意識していないセバスが言いかけたのを遮り、
「これは私が好きでやってることだから、気にせず受け取って欲しいの。男に服買ってあげるなんてちょっと久しぶりだしね〜」
割と心底楽しんでそうなエリミリアに、セバスもつられて少し笑顔になってしまうのであった。
〜10 執事と魔女と魔法戦士と④へ続く〜