思い出、4
前の夜に起こった出来事は何だったのだろうか?
きょうはホームスティが終わる日
一ノ瀬家でささやかな解散式があり
一ノ瀬源太郎、小夜子夫婦の音頭で、みんなでジュースで乾杯した。
「峰子がおらんのは残念だが、また会いましょう」源太郎が言うと
桜(長女中学生)、緑(小学5年11歳)、渚(小学3年9歳)、はエレオノーラと父親を港に送っていった。
小姑島のひなびた漁港には、場違いな大きな豪華なヨットが入港していた。
中から老人の大男が現れた。世界屈指の大富豪ヨハネス・アレクサンドロス氏だった。彼はすでに一ノ瀬家に行って、ていねいに孫娘が世話になったお礼を言い頭を下げてきていた。
ヨハネスロ老「やあ。アルベルト、きみの小説の新作のイメージは沸いたのか?」
アルベルト「いや、まだなんです。」アルベルトはぽりぽり頭をかいた。
ヨハネス老「ヨットレースが舞台なんだろ?」
アルベルト「はい、いちおうモチーフはヨットなんで」
ヨハネス老「そのために、わざわざ わし自身がこのエメラルド号で来てやったんだ。わしはあんたの小説の大ファンだからまた新作を送ってくれよ」
アルベルト「はい、ありがとうございます」
アルベルト「渚、おまえおじいちゃんばあちゃんちに残るのか?」
9歳の渚「うん、ここのほうがいいもん」
アルベルトはこの世の終わりみたいな顔をした。
エレオノーラが緑に「また、メール送るね」と言ったが
緑は聞こえないふりをした。
アルベルトは奇妙に思った。彼は息子の勘違いにまだ気づいていない。
エレオノーラはあれだけ親しかった緑の露骨な態度の変化を、不審に思っていた。
桜が長女らしく仕切った
「じゃあ、おとうさん、ママと仲良くね。渚の世話はまかせてください。」
アルベルト「ああ じゃあな」
エレオノーラとアルベルトが乗船し
ヨハネス・アレクサンドロスが叫んだ。
「出航だー!!」
船員たちがテキパキと走り回り、美しい帆船は、そのまま
大海原へと快適に走り出した。