思い出、6
地獄谷学園高校部の男子部1年の教室では
4時間目の世界史の時間はけだるかった。
東野順平は あくびをして鼻に鉛筆をつっこみながらぼけーと外を見ていた。
一ノ瀬緑はいつものように先生の方を向き、真面目にノートをとっている。授業に集中しているのだ。
教師が声を大きくして言った。
「紀元前2000年頃 女覇王と言われるアナスタシア女王は世界統一し、世界史に例をみない大帝国を創り、聖女王と呼ばれたんだ。ここまではわかったかな? いまこのアナスタシアの純粋な女系の血筋を伝えるのはこの東(ひのもと)国の王家だけだ。東(ひのもと)国は古代より女王国と呼ばれてだな・・・・・おい、そこ、東野!なにやってんだ?」
東野順平はなんとか一ノ瀬緑を笑わそうと口から2本の鉛筆を鼻の穴につっこみものすごい変顔をしていたが、順平の挑戦むなしく緑の視野の外だった。
教師は順平を無視すると、授業を続けた。
「聖女王アナスタシアの伝説は世界中に数知れず残っているがアナスタシアが創ったハルモニアの都がどこにあったかすら現在はわからない。この女覇王の実在自体を否定する学者もいる。」
順平がすっとんきょうに聞いた。「先生、その女覇王アナスタシアはトップレスで裸雌馬に乗って黄金の槍を手に持ち戦ったっていうのは史実ですか?」
教師「ありゃ 映画だ。わかるか!」そのときチャイムが鳴った。
教師「あーー飯にするか。じゃな」
順平がまってましたと、緑の方へ走ったが、それより早く緑は教室を走り出ていた。
弁当を2個もって。そして女子部との境にあるフェンスにいくと、そこには緑の妹の渚が待っていた。
手に持った弁当を1個、フェンスの上から渚に渡した。
緑は毎日 妹の分も手作り弁当をつくりいつも昼までに ここで妹に手渡していた。
渚「お兄ちゃん ありがとね。じゃね」
緑より2学年下の渚は、走り去った。
その先には渚の仲良しの女の子たちが騒いで待っていた。
順平は緑に追いついた。「おい 一ノ瀬 おれ今月もう生活費ないんだ。助けてくれ。」
緑「知らねえよ!」
順平「そんなこと言わず、な、な」その哀れな声に 緑は仕方なく、順平に自分の弁当を半分わけてやった。
順平「おまえは 超いいやつだ!」
緑の弁当の蓋にわけてもらった弁当を 緑にもらった割り箸でほおばりながら順平が そういった。
緑「うざいから 言うな!」
順平は調子のいいやつで これまでお調子だけで生きてきた感のあるやつだった。掃除もさぼる、宿題はしてこない、忘れ物もしょっちゅうだが、いつも緑をたよっていた。
緑は順平を露骨に嫌っているのだが 緑の誰にでも分け隔てなく優しい真面目な性格が順平に見透かされ利用されていた。
一ノ瀬緑は心の中におじいちゃんから教えられた彼独自の『武士道』を持っていた。
女子部の校庭では、女の子たちがお弁当を食べていた。
渚の仲良しの女の子たちが、渚の兄の一ノ瀬緑にいろいろ論評かしましかった。
渚のお弁当のおかずを見て、
女の子A子「なかなかいいセンスしてるじゃん」
女の子B子「ねえねえ 一口食べさせてみて」
女の子C子「将来はやっぱり料理人になりたいの?渚のにーさん」
女の子D子「生活力ありそうだね。男子力ありそうな感じ」
いろいろ言われてますが、結論は
女の子A子「一ノ瀬緑くんて 醤油顔のイケメンだけど、ジミーくんなのよね。」
女の子B子「渚の話だと、細かいことにいちいちうるさいみたいだし」
女の子C子「家事や料理が得意で好きなのは得点高いけどね・・・・ジミーくんなのよね」
渚はもくもくと自分の弁当を食べてます。