思い出、10
小姑島のすぐ隣に狭い砂州で繋がった出戻女島という小さな島がある。
そこはその昔、大笠原諸島の領主の館があった。鎖国がおわってから新政府によって貴族になった領主は、子爵の館という洋館をエウロパから建築士をよび建てた。
写真でみる子爵の館は不気味な様子だが目の前の館はまるで豪華ホテルのようだった。
ヨハネス・アレクサンドロスが子孫から買い取ってすでに改修も済ませていたのだ。
ヨハネス・アレクサンドロスはエレオノーラに得意げに言った。
「ほら おまえが1年間住む家を用意したぞ!」
エレ「・・・・よけいなことしないでと言いませんでしたか?おじいさま!」
エレオノーラはきつい口調で言った!
エレ「私 この家には住みませんから!」
ヨハネス「ええええええ!?」
エレ「一ノ瀬峰子さんの育った家で暮らすことはもう決めてます。」
ヨハネス「しかしあんな犬小屋みたいな家で?!」
エレ「おじいさま!世の中には言っていいことと悪いことがありますよ!私はその犬小屋に住みますので!
執事のビショップさんに頼んで小姑町立小学校の5年生に転入手続きをしました。」
ヨハネス「ええ?!もう大学の物理学科も卒業し大学教授の資格もあるお前がどうしていまさら小学生?!」
エレ「1年間私に連絡はしないでください!私は一ノ瀬家家族の娘として1年暮らしたいんです。」
ヨハネス「わかった。これまでお前が言ったなかで最大のわがままだが、きこう」
エレ「この家は小姑島の町にでも寄付します。」
ヨハネス「好きにするといい・・・・」
エレ「ではこれで。1年間さようならです、おじいさま」
ヨハネス・アレクサンドロスはこの世の終わりのような顔をした。
エレオノーラはさっさと祖父の前から立ち去った。
一ノ瀬家はもともとは小姑島の地元の漁師で
源太郎は腕の良い漁師で小夜子は海女だったが今は
源太郎が時々知り合いに頼まれて友人と自分の楽しみのために釣り船を出すくらいである。
一ノ瀬家はきょうは源太郎がとくいの包丁さばきで最高の刺身を作った。魚はむろん、昼に源太郎が釣ってきたばかりの魚である。残りの魚を使ってアルベルトが最高のブイヤベースとパエリヤを作った。
アルベルトがもってきた秘蔵のワインと、源太郎の秘蔵の焼酎と。
子供達にはジュースと。
エレオノーラ歓迎と家族がそろった宴は夜おそくまで続いた。
緑は姉に雑誌をかしていたのを思い出した。少年ナンチャラに1作 姉の読みたい漫画があるのだ。
緑「貸すのいやだ!自分で買えばいい!」といったら おじいちゃんに怒られた。
姉の部屋のふすまの外から
緑「おねーちゃん ぼくの本返してよ」といったが部屋は真っ暗で返事はない。すーすーと寝息が聞こえる。
ふすまをソロっと開けると、奥の姉の机の上に少年ナンチャラがあった。
抜き足差し足で緑は姉の部屋に入ると、手前の布団で姉の桜が、奥の布団でエレオノーラが寝ていた。
エレオノーラは今日、クラスで転校生として紹介され緑の同級生になっていた。
緑は二人の寝顔をしげしげと見た。
中学生の姉は 近所でも可愛いと評判の少女だったが
エレオノーラの端正な顔立ちは まるで美術の本に出てるミケなんとかの造った大理石の天使像のようだった。
緑は目的の自分の本を回収すると そっと部屋をでた。