女王はひとしきり泣くと、気が落ち着つけました。
彼女はこの世界で屈指の知恵ある人でしたし、
女王としての人品を兼ね備えた思いやり深い人でしたので、夫に悪気はないと理解しました。
夫は体は一人前だけど、心はまだ幼い子供、分かり易く言えばほんのネンネのガキ。
仕方ないと思いました。
「はぁ・・・・青き勇者様とはこれから後90年位はお付き合いするのですから、ゆっくり分かり合えばいいわ」
女王は自分のほっぺをパンパンとたたいて、作り笑顔をすると、心を田中太郎への愛でいっぱいにして、
隣の部屋の扉を開けました。
「青き勇者さま、食事になさいませんか?」
「うん?」二度寝していた僕は、夢うつつで起き上がり、「かーさん、もうちょっと寝かせてよ。食器はちゃんと洗っとくからさ」と言いました。
「青き勇者さまのお着替えを」女王が手をパンパンとたたくと、数人の若い男の召使が現れ、たちどころにタンスにあった貴族の服の1着を取り出し、靴に靴下と着替えが終了しました。
「ふにゃ~」寝ぼけ眼の僕の手を女王は引いて、階下にある夕べフルコースを食べた大食堂へ連れて行ってくれました。テーブルは少し小さめのテーブルに替えられていましたが、それでもお互いに向かい同士に座ると、声は聴きとりづらい位大きなテーブルでした。
そのテーブルのこっちと向こうに座り、召使にかしづかれ、朝からすごく手の込んだ美味しい料理をたくさん食べました。召使からやんわりと、マナーをひかえめに教えられながら、僕はおもいっきり食べました(朝ごはんはいつもカップラーメンで、昼は菓子パンと牛乳だったから)
口が汚れると、召使がさっと僕の手より早く、拭いてくれます。
すべて、銀の皿に銀の器に銀の食器・・・・天井の上には水晶でできた大きなシャンデリアが輝いています。
左側は扉がすべて開け放たれ、中庭からのそよ風が入ってきます。大食堂から見える中庭はあらゆる花が咲き乱れ、中央には美しい噴水が気持ちよく水を噴き出していました。
「ぼくの学校の校舎の中庭より広い中庭だなぁ」と横目でチラチラ見ながら
でも、僕は、生まれて初めて食べる朝からの豪華な食事に夢中で、召使の教えてくれるマナーを気にしながらも16歳の健康男子の胃袋のままにガツガツと食べたいだけ食べました。