長い祈祷が終わり、エルフは祭壇に向かって長く頭を垂れた。供えられたロベールの人形はその影の中で、じっと風を受けていた。
弔問客にも恭しく頭を下げ、儀式は終幕を迎える。リルリラの出番もこれで終わり……とはいかなかった。
葬儀が終わったとみるや、人形たちは口々に疑問を投げかけた。今のはどういう意味があるのか、これで何が起きるのか、と。
リルリラは少し困った顔をしたが、奥ゆかしく言葉を選んだうえでこう語った。

「何かが起きるということは無いかもしれません。ただ、ロベールさんが皆さんに愛されていた証を、私たちの知っているやり方で表現させてもらったんです。私たちは、それがとても大事なことだと思っているんです」
そしてエルフはオルーサを……ロベールの母を見た。オルーサは何も言わず、ただ感謝の涙を流しながら僧侶に深々と頭を下げていた。リルリラはほっとしたように微笑んだ。少しだけ、固さがとれたようだった。
人形たちの一人が言った。
「俺が壊れた時も、こんなふうにしてもらえたら嬉しいかもな……」
同意の声が上がる。だが首を横に振る者も少なくない。
「いや俺は別にいいかな……特に何も起きないんだろ?」
こちらにも同意の声が上がる。めいめいの意見を口にしながら、群衆は散っていった。
この一件ですべてが変わるなどということはない。ただ一陣、風が吹いた。それだけだ。
風のせいだろう。ロベール人形は少し、頭を下げたように見えた。
リルリラはただ慎み深く微笑みを浮かべ、あらためて深々とこうべを垂れた。
*
この後、リルリラはあくまで慎ましい微笑みと厳粛な空気を纏ったまましめやかな足取り宿に戻り、エステラと共に部屋に入ると、静かにドアを閉めた。
そして閉めるなり、床を蹴る高い音、続いて質量を受け止める重く柔らかな音が響き、最後にくぐもった悲鳴のような声が響いた。
「つ~か~れ~た~~!!」
ベッドに顔を押し付けて叫ぶエルフの姿が目に浮かぶようである。私は苦笑しつつ、後で労ってやろうといくつかのプランを組み立て始めた。
そんな私の隣で、エレインは大きくため息をついていた。その表情は、神妙であった。
「どうした?」
私が促すと、彼女は何度か躊躇った後、切り出した。

「……あなたのおっしゃっていたこと、わかったような気がします」
彼女はソファに浅く腰掛けると、ひじ掛けに体重を預け、窓の外に目をやった。
「先ほどの葬儀に向ける彼らの視線……肯定的なものも否定的なものもありましたが、誰もがそれを無視できない様子でした。……見た目は明るくても、この町の人たちは既に死に向かって歩み始めている」
夕闇が町を包み始めた。窓辺から冷たく乾いた風が入り込む。エレインはこめかみのあたりに手をやりながら、小さく首を振った。
「そこにみだりに介入するのは、私の傲慢だったかもしれません」
「矛盾するようだが……」
と、私は壁に背を持たせ、腕を組んだ。
「私は逆のことを考えていたよ」
エレインが顔を上げる。私はそのまま続けた。
「すくなくともあの母親は、リルリラに感謝していた」
私の脳裏に、深々と頭を下げるオルーサの姿がよみがえる。去り行くもの、見送るもの。その仲立ちをするもの。
「外から来たものが彼らの救いになるのだとしたら、私はリルリラをほめてやりたいんだがね」
「それは……そうです」
と、階段を上る音が聞こえてきた。宿屋の女将ジョスリである。手にしたトレーにいくつかのカップがある。彼女はお疲れでしょうから、といってそれを我々に差し入れた。もちろん、部屋で休んでいるリルリラ達にもだ。
夕日と同じ色をした澄んだスープに細かく刻まれた数種類の野菜が彩りを加え、温かな湯気が食欲を誘う。口に含むと、かすかな塩味が心地よい。一日の疲れが癒されていくようだ。エレインと私は議論を止め、じっくりとそれを味わった。
「いかがでしたか?」
と、カップを回収に来た女将が問う。エレインは丁寧な手つきでカップを返しながら頭を下げた。
「大変美味しゅうございました」
エレインの回答に私も同意する。何より、疲れた頃にサッと差し出してくるその心遣いが嬉しいではないか。
「よかった」
と、女将は顔を輝かせた。
「私たちはもう温かいスープを飲むことはできないけど、だからこそ、この町にやってきた人には最高のスープを味わってほしいと思って、ずっとレシピを研究してたんですよ」
人形は微笑みを浮かべつつ胸を張った。エレインの瞳に大きな光が灯る。そして彼女はもう一度、深々とお辞儀を返した。
「……一流の宿屋です」
それは宿屋協会のコンシェルジュが送ることのできる、最大級の賛辞だった。